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2022.11.4
私たちの生活は、非常に優れた技術のもとに成り立っています。そのなかで木材、建築業界を一変させることとなったプレカットは、革新的技術として急速に普及しました。一方で、普段の生活のなかでは馴染みのない言葉でもあります。
そこで今回は、プレカットやプレカット工法をはじめ、メリット、デメリットなどにも触れて解説していきます。
目次
プレカットとは、木造住宅部材をあらかじめ機械でカットしておく技術になります。すなわち、柱や梁の継ぎ手、仕口といった接合部の加工が施された部材が建築現場に届きます。
従来の建築現場では、大工職人が部材に墨付けを行い工具で手加工をしていました。一方、プレカットが普及した現在では、現場での手加工はほぼなく、機械加工が施された木材を組み建てていく建築が主流となっています。
このようにプレカットされた部材で建築する工法をプレカット工法といいます。現在、最新のプレカットシステムは、プレカット材と設計図面の誤差を0.1mm以下の精度で加工することができます。
高精度化が進むにつれ木造軸組構法におけるプレカット率は、ここ30年急激に普及し、2016年時点で90%を越えています。
今、日本における木造軸組構法の新築住宅は、ほぼプレカットされた住宅といっても過言ではありません。
ここまでプレカットが普及したため、一見すると、プレカットはメリットだけのように見えますが、実はデメリットも存在します。
メリットとして代表的なものは
一方でデメリットとして代表的なものは
といったものが挙げられます。
これまで手作業で行っていた加工が、機械化されることによって工期がかなり短縮されるようになりました。住宅の規模にもよりますが、通常、プレカットの加工自体は1〜2日程度で完了し、大工職人の場合は数ヶ月かかることもあります。
また、建築現場で木くずなどの廃材がでないので、清掃する時間も短縮できます。
住宅品質確保促進法(品確法)によって、住宅の品質もある程度確保されるようになりました。もちろん、それを構成する部材においても一定の品質が求められます。プレカット材は、ある種コンピューター制御された材料のため、一定の品質が保たれており、提供される材質も均一です。
一方手加工の場合、大工の腕前に依存する部分があるので、どうしても精度や品質にバラつきが生じるため、日本全国どこでも同じとはいきません。
プレカットによって工期が短縮できることにより、大工の人件費も抑えることができます。さらに、廃材の集積費なども抑えることができるため、工事費全体のコストが削減できます。また廃材の削減は、現場で作業する際の障害物の削減につながるため、大工の安全性の確保といった点においても非常に重要であるといえるでしょう。
木材は生物材料なので、一本として同じ木材はありません。プレカットが普及する前の大工は、木材に触れる時間も長く、その個性を見抜いて用途にあった活用をしてきました。つまり、木材の良し悪しを見抜く力が養われていたのです。
一方、「組み建てるだけ」が大工の仕事となりつつある現代においては、木材を見抜く事もなくなり、個性を活かした建築が徐々に失われていきます。
プレカットを用いることによって、古くから培われてきた大工技術の継承ができないという問題もあります。墨付けや手刻みは、ただ接合部を成立させるために行うだけでなく、若手大工を育成する場でもありました。しかし、今ではそういった場が少なくなり、建方や造作はおろか、墨付けや手刻みができない大工も多くなってきています。
高度化が進むプレカット技術ですが、神社仏閣のような伝統建造物に携わる大工の技術には到達していません。住宅であればプレカットで対応できる範囲ですが、日本を象徴する建造物のような木組みを再現するとなると、非常に難しい現状にあります。
プレカットがここまで浸透した日本には、一体どのようなプレカット会社があるのでしょうか。本章では国内のプレカット会社数社の紹介と、その特徴について紹介します。
ポラスグループのポラテックは、生産量日本一の工場をもっています。本店は埼玉県越谷市にあり、全国6つの工場で生産するプレカット事業だけでなく住宅建築や不動産販売なども行っています。
木材プレカットの加工実績日本一ということもあり、業界全体の先駆け、牽引役を担っています。また、プレカット加工機への木材供給は、一般的であるフォークリフトでなく「多棟木拾装置」を世界で初めて導入しています。
10棟単位での木材を3人のオペレーターで稼働でき、省力化が図られています。
テクノウッドワークスは、本社が栃木県鹿沼市で木造住宅プレカット事業を行っています。プレカット工場は7つあり、栃木県産材の活用推進や工場見学など、地域に根ざした会社になります。
また、県内の山林を取得し、社内研修では間伐や造林作業などを体験することで、実際の山から運ばれる木を現場で学ぶなどの取り組みも行っています。
中国木材は、本社が広島県呉市にあり、木材および集成材の製材や乾燥、木質バイオマス、プレカット加工などを行っています。国内の構造用ベイマツ無垢乾燥材の梁、桁の約95%が中国木材であり、物流体制の最適化が図られています。
また、業界一の乾燥設備も整えており、さらにその燃料は自社工場から排出される残廃材を利用しており、ゼロエミッションに取り組んでいます。
2021年3月頃、ウッドショックという言葉が飛び交い、建築・木材業界に大きな影響を与えました。それに呼応する形でプレカット価格の高騰が叫ばれるようになりました。本章ではウッドショックとプレカット価格について解説します。
ウッドショックとは、2021年頃から木材の需給がひっ迫し、木材不足によって価格が高騰した状態のことです。ウッドショックは以下の原因が関係しているとされています。
また、ウッドショックは1990年代と2006年の過去2回発生しており、それぞれ原因が異なります。前者は世界的な天然林保護運動が、後者はインドネシアによる伐採制限が引き金となっており、世界情勢などによって木材価格も大きく変わってきます。
2021年度は7割のプレカット工場が前年の加工量を上回りました。もちろん前年より住宅着工総数が5.0%増加したことも関係してきますが、2021年は春からのウッドショックにより極度の木材不足にもかかわらず、各工場は血眼になって材料の調達を遂行したことが大きいでしょう。
その甲斐あって、このウッドショックをプレカット工場はなんとか乗り越えることができました。
(参考:日刊木材新聞 第19502号)
2021年度には7割のプレカット工場で前年の加工量を上回る一方で、木材調達が間に合わず実績を落とす工場もみられました。しかし、住宅会社に提供するプレカット材価格は、坪単価で約2倍も値上がりし、工場の収益性が改善に寄与しました。
また、その影響によって住宅販売価格も値上がりし、700〜800万円も増加した工務店もあったとのことです。ウッドショックによる負の連鎖は、時間の経過とともに私たち消費者の生活に影響を及ぼすこととなりました。
(参考:日刊木材新聞 第19502号)
今回は、私たちの生活に浸透したプレカットについて解説しました。プレカット会社は基本BtoBで、会社名や事業などの業界について知る機会が少なく、初めて知ったという人も多いのではないでしょうか。また、一見するとプレカットはメリットだけのように思えますが、デメリットも含んだ技術です。
このプレカットの登場により、木材加工の機械化が進み住宅提供の合理化が図られた一方、日本の伝統技術が失われる可能性も孕んでいることについても触れました。これは木材、建築業界に限った話ではありませんが、技術進歩と伝統継承の共存を真剣に考える時期が訪れているような気がします。
本記事が、そのきっかけの一助となれば幸いです。
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