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2023.6.23
エネルギー収支ゼロ以下の住宅を目指す「ZEH」の基準は、省エネ住宅を生み出せるほか、停電といった緊急時の対応に必要不可欠な取り組みです。では、建築物でZEHの基準を満たすためには、どれくらいの断熱性能等級が必要なのでしょうか。
本記事では「ZEH」の断熱性能等級について解説します。また、ZEHの基準を満たすポイントや断熱材の選び方も紹介するので、ZEHに欠かせない要素を詳しく見ていきましょう。
目次
断熱性能等級とは、国土交通省により定められた新築住宅の温熱環境を評価する指標のことです。断熱性能等級は1〜7の7段階に分類されており、下表のように地域区分ごとのUA値(外皮平均熱貫流率)、ηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)から評価できます。
地域区分 | |||||||||
1(夕張等) | 2(札幌等) | 3(盛岡等) | 4(会津若松等 | 5(水戸等) | 6(東京等) | 7(熊本等) | 8(沖縄等) | ||
断熱等級7 | UA値(W/m2*K) | 0.20 | 0.20 | 0.20 | 0.23 | 0.26 | 0.26 | 0.26 | – |
ηAC値 | – | – | – | – | 3.0 | 2.8 | 2.7 | – | |
断熱等級6 | UA値(W/m2*K) | 0.28 | 0.28 | 0.28 | 0.34 | 0.46 | 0.46 | 0.46 | – |
ηAC値 | – | – | – | – | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 5.1 | |
断熱等級5 | UA値(W/m2*K) | 0.40 | 0.40 | 0.50 | 0.60 | 0.6 | 0.6 | 0.6 | – |
ηAC値 | – | – | – | – | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 6.7 | |
断熱等級4 | UA値(W/m2*K) | 0.46 | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | 0.87 | 0.87 | – |
ηAC値 | – | – | – | – | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 6.7 | |
断熱等級3 | UA値(W/m2*K) | 0.54 | 0.54 | 1.04 | 1.25 | 1.54 | 1.54 | 1.81 | – |
ηAC値 | – | – | – | – | 4.0 | 3.8 | 4.0 | – | |
断熱等級2 | UA値(W/m2*K) | 0.72 | 0.72 | 1.21 | 1.47 | 1.67 | 1.67 | 2.35 | – |
ηAC値 | – | – | – | – | – | – | – | – |
この評価基準をもとに、ZEHに求められる基準を見ていきましょう。
結論、ZEHに求められる断熱性能等級は「断熱等級5」です。ZEHには、下表のように一次エネルギー消費量の削減率によって種類が分かれますが、すべて断熱等級5を満たす必要があります。
ZEHの種類 | 一次エネルギー消費量の削減率 |
ZEH | 省エネ基準から20%以上再エネ導入を含めて100%以上 |
ZEH+ | 省エネ基準で25%以上再エネ導入を含めて100%以上 |
Nearly ZEH | 省エネ基準で20%以上再エネ導入を含めて75%以上100%未満 |
Nearly ZEH+ | 省エネ基準で25%以上再エネ導入を含めて75%以上100%未満 |
ZEH Oriented | 省エネ基準で20%以上(再エネを除く) |
また、断熱等級5を満たす際に必要となるUA値、ηAC値を、地域区分別に整理しました。
地域区分 | |||||||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | ||
断熱等級5 | UA値(W/m2*K) | 0.4 | 0.4 | 0.5 | 0.6 | 0.6 | 0.6 | 0.6 | – |
ηAC値 | – | – | – | – | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 5.1 |
出典:「住まい」から目指す幸せなエコライフ|一般社団法人日本サステナブル建築協会
ZEHの基準である断熱等級5を目指すためには、断熱材の種類・厚みを変えたり、断熱性の高いドア・窓を設置したりと、断熱効果の高い建築物にする必要があります。また、2022年10月までは断熱等級5が最上位の分類でしたが、新たに断熱等級6、7が登場するなど、さらなる一次エネルギー消費量の削減率が求められています。
建築物の外皮の断熱性能は、UA値、ηAC値から算出された値から評価します。計算式は以下のとおりです。
【UA値(外皮平均熱貫流率)】
UA(W/m2*K) = 単位温度差当たりの外皮総熱損失量 / 外皮総面積
【ηAC値(冷房期の平均日射熱取得率)】
ηAC = (単位日射強度当たりの総日射取得量 / 外皮総面積)×100
上記の計算は、、一般財団法人住宅・建築 SDGs 推進センターが提供する「エネルギー消費性能計算プログラム」から簡単に計算できます。建築物の外皮総面積を算出したうえで、計算プログラムを活用してみましょう。
ZEHとして認めてもらうためには、以下の要素を満たす必要があります。
ひとつずつ解説していきます。
ZEH住宅の認定基準のひとつに、「強化外皮基準が0.6~0.4以下」というものがあります。強化外皮基準とは、建物の壁や断熱材などを含めた外皮の断熱性能の基準のことです。ZEH住宅の認定基準を満たすためには、断熱性能を高めることが重要です。しかし、良い断熱材を使って認定基準をクリアしたとしても、施工が正しくされず隙間のあるままではせっかくの断熱性能を発揮できません。気密性能もしっかり高めることで、省エネ住宅に近づけることができます。
また、認定基準達成のためには、開口部(窓・扉)の断熱性能を高めることも重要です。開口部は、玄関の扉を開けたり窓から空気の入れ替えをしたりと、室内の温度を外に逃がしやすい場所です。室温が変化すると、空調設備の稼働時間が延びるため、電気代がかかります。
これに対し、断熱性能に優れる開口部であれば、長時間室内の温度を一定に保てます。必要最小限の電力で室温を維持できることから、省エネ効果を期待できるでしょう。
ZEH住宅の認定基準のひとつに、「基準一次エネルギーの消費量から20%以上の一次エネルギー消費量削減」というものがあります。冷暖房、照明、給湯、換気などはエネルギー消費量が多いため、なるべくエネルギー効率の良い設備を選択することが重要です。
ZEHでは、エネルギー収支ゼロ以下にする必要があります。そのためには再生可能エネルギーの創出に力を入れることが大切です。世の中では「風力発電システム」や「水力発電システム」などさまざまな再生可能エネルギーがありますが、中でも建築物でよく用いられているのが「太陽光発電システム」です。太陽光発電システムとして、屋根や外壁にソーラーパネルを設置できれば、日常生活で利用する電気を補えます。電力会社から供給している電気代を節約できるため、大幅な省エネ効果を期待できるでしょう。
ZEH基準を満たすには、エネルギーを蓄える「蓄エネ」についても考える必要があります。
蓄エネとは、創エネから生み出されたエネルギーを建築物に蓄えておくことです。地震や津波といった災害で電力が使えなくなった場合でも、一時的に生活できる環境を整備できます。また、昼間に蓄えたエネルギーを夜間に利用することで、24時間体制で省エネ対策を実施できます。
UA値(外皮平均熱貫流率)を下げて断熱性能に優れた建築物を建てるには、断熱材にこだわりましょう。断熱材には外気温や冷たい空気を遮断する効果があるため、木材や木質建材などを断熱性に優れたものにすることはもちろん、壁や床、天井などに断熱材を設置することによって高い断熱効果を発揮できます。
断熱材は、種類によって断熱効果が異なります。断熱材を選ぶ際は、ZEH基準を満たすために、必要な性能を備えているかどうかを確認することが大切です。ここでは、ZEH基準を満たすために必要な断熱材の選び方を、「種類」と「性能」の観点からご紹介します。
断熱材は、種類によって性能が変化します。種類別に断熱材の最低水準値を整理したので、後述する性能の内容を参考にしつつ、高断熱に必要な建材を選んでいきましょう。
断熱材 | 熱抵抗値R(m2*K/w | 熱伝導率A(w/m*K) | 厚み(mm) | |
繊維系 | グラスウール | 1.00 | 0.05 | 50 |
ロックウール | 1.31 | 0.038 | 50 | |
吹込み用繊維系 | 吹込み用グラスウール | 1.92 | 0.052 | 100 |
吹込み用ロックルール | 2.12 | 0.047 | 100 | |
吹込み用セルロースファイバー | 2.50 | 0.040 | 100 | |
発泡プラスチック系 | A種ビーズ法ポリスチレンフォーム保温板 | 0.23 | 0.043 | 10 |
A種押出法ポリスチレンフォーム保温板 | 0.50 | 0.040 | 20 | |
A種フェノールフォーム保温板 | 0.58 | 0.026 | 15 | |
A種ポリエチレンフォーム保温板 | 0.59 | 0.042 | 25 | |
A種硬質ウレタンフォーム保温板 | 0.29 | 0.024 | 7 | |
吹付け硬質ウレタンフォーム | 0.38 | 0.026 | 10 |
出典:国土交通省「表示・評価方法基準(省エネ)における検討方針」
断熱材は、前述した断熱材の表を参考にしながら、以下に示す3つの性能を見て選ぶことが大切です。
熱伝導率は、熱の伝えやすさを表す値です。熱伝導率の低い断熱材を選ぶことが、ZEH基準を満たす際に必要となります。
断熱材の厚みは、住宅金融支援機構の「202101技術基準のご案内」に最低厚が整理されています。木造・鉄筋コンクリートといった建築物の条件、また、用いる部位や地域によって厚みが変化します。もちろん、断熱材が厚いほど断熱効果を期待できますが、近年では、薄く高断熱性の製品も登場しています。
熱抵抗値は、「熱伝導率」と「断熱材の厚み」から算出される熱の伝わりにくさの値です。以下の計算式によって算出でき、熱抵抗値が高いほど高断熱な建築物を生み出せます。
熱抵抗値R(㎡*K/w)= 断熱材の厚みd(m)/ 断熱材の熱伝導率A(w/m*K)
ZEHは省エネ対策として非常に効果的ですが、建築費用が高額になってしまうというデメリットがあります。そこで、ZEHと一緒に知っておきたいのが、ZEHに対して補助制度を提供している「地域型住宅グリーン化事業」です。
当事業は「質の高い木造住宅の整備」や「地域材利用」に対して支援を受けられる制度です。主に民間事業者が対象の制度であり、補助額は次のとおりとなります。
【補助限度額】
参考:地域型住宅グリーン化事業評価事務局「令和4年支援制度」
また、地域材の使用や、バリアフリーの実施等によって補助金が加算されるため、お得にZEHを建てられるのがポイントです。ZEHを建てる前に、ぜひ補助金を申請してみてください。
ZEH基準を満たすためには断熱等級5を目指さなければなりません。現状、断熱等級5は高断熱な建築物として評価されますが、今後は、さらに上の基準である断熱等級6、7といった建築物が注目されています。
断熱性能等級6、7はすでに2022年10月から施行しており、建築物に次の性能が求められています。
地域の区分 | 1・2地域 | 3地域 | 4地域 | 5地域 | 6地域 | 7地域 | |
外皮性能水準別外皮平均熱貫流率UA>[W/(m2・K)] | G1水準 | 0.34 | 0.38 | 0.46 | 0.48 | 0.56 | 0.56 |
G2水準 | 0.28 | 0.28 | 0.34 | 0.34 | 0.46 | 0.46 | |
G3水準 | 0.20 | 0.20 | 0.23 | 0.23 | 0.26 | 0.26 |
また、2025年以降はすべての新築住宅が省エネ基準である断熱性能等級4以上に適合義務化される予定となっています。それに伴い、断熱性能等級の階級が変化します。国内全体の建築物における断熱性能が向上し、電力消費量ひいてはCO2排出量を削減できることから、環境対策向上の実現へ向けてより一層、省エネの取り組みが進行していくと予想できます。
地球温暖化や気象変動など、人間活動の影響によって環境が大幅に変化しています。そして現在、日本では建築という観点から省エネ対策に優れる基準などが多数登場しています。そのひとつとして、高断熱を維持できるZEHという基準は、快適な住まいに欠かせない取り組みです。
断熱性能等級5を満たす必要があることはもちろん、将来は、さらに高品質な建築物が求められるようになると予想されます。断熱材や開口部の建材、そして建物に利用する木材なども大きく影響するポイントです。この機会にZEHの基準を満たすための準備を始めてみてはいかがでしょうか。
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