森林・木材のお得情報
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2022.3.31
空間創造と空間活性化のプロフェッショナル集団である、乃村工藝社さん。
商業施設やオフィス、博物館、展覧会、ホテル、テーマパークなど様々な空間のプロデュースを手掛けておられます。以前から木材利用のご相談などで関わりのあった乃村工藝社さんですが、2021年3月に本社ビルに隣接する台場ガーデンシティ内に新オフィスをオープンされたとのこと。この度は「こだわりの詰まったオフィスをぜひ見てみたいです!」という森未来のワガママなお願いにより、デザインディレクターの大西様に新オフィスをご案内いただきました。
乃村工藝社 デザインディレクター
大西 亮
ミュージアムデザインを起点に企業ショールーム・店舗デザイン・ワークプレイスまで分野にとらわれないプロジェクトを経験。情報デザインとインテリアデザインの領域を融合した空間づくりを主軸とし、デザインプロセスを包括的に捉えたクリエイションを展開しています。
今回の記事では乃村工藝社さんの木材使用に関する取り組みやオフィスづくりへの想いについて触れながら、木材を扱う森未来の目線から乃村工藝社さんのオフィスをご紹介いたします。
目次
コロナ禍による変化などでオフィスに出社することが当たり前ではなくなった今、オフィスは目的を持って「わざわざ来る場所」となりました。そんな中、乃村工藝社さんはあえてリアルなオフィス空間の価値を高める試みをされています。
乃村工藝社らしいアイデアが詰まった場所で、リアルならではの偶発的なコミュニケーションを経てクリエイティブな感性を刺激し合いながら、共通の言語を作っていく。新オフィスではそんな空間を実現されています。
まず最初にご案内いただいたのは、2018年に本社ビルに設置した「RESET SPACE」です。
こちらは2021年に新たに設置した「RESET SPACE_2」の前身となる場所で、現在でも使われています。個人ブースで集中して仕事をする人もいれば、打ち合わせをする人もいる。運動している人もいれば、くつろいでいる人もいる、そんな空間です。
▶「RESET SPACE」の360度3Dバーチャルツアーはこちら
乃村工藝社さんのオフィスでは人流計測やオフィスフレグランスの試運転、様々な種類の家具の設置など、たくさん空間づくりのための実験が行われています。実験の結果は新オフィスや乃村工藝社さんが手がける空間づくりに生かされており、「アイデアが湧いたらどんどんやってみる」というスピード感が窺えました。
ここからは2021年にオープンした新オフィスへ。こちらはUnique Parkがコンセプトとなっている「RESET SPACE_2」です。遊ぶように働き、働くように遊んでいる、そんな他の会社では見られない光景こそが「ノムラらしさ」なのではないか?という発想から、誰もが自由に使える公園のような場所にすることで空間の可能性を高めています。
▶︎「RESET SPACE_2」の360度3Dバーチャルツアーはこちら
インパクトのすごい「ぬいぐるみテレカンブース」は吸音効果とカメラ映えが期待できる優れものです。中に入ると、なかなかの迫力がありました。
仕事の流れやノムラあるあるを学ぶことができる「すごろくテーブル」です。
内容は社内の方が本気で考えたリアルなものだそうです。
「ユニーク・ピーポー・セレクション」は“自分よりユニークな人”を指名して繋いでいくコーナーです。選ばれた本人に座ってもらうことで通りがかった人とのコミュニケーションのきっかけが生まれたり、パネルから社内の人を知ることができます。
「RESET SPACE」では空間の隅に設置していた自販機ですが、人流測定により「自販機に向かうまでの手前のスペースでコミュニケーションが起きる」という結果が分かったため、「RESET SPACE_2」では人が通りやすい開けた場所に設置しています。
乃村工藝社さんが大事にしている社員の健康のための食材やお皿、食事をする環境を自由に選ぶことができる「UNIQUE/FOOD/SELECTION」です。
仕事をするデスクで買ってきたものを一人で食べるのではなく、デスクを離れて気分を変えて、コンディションに合わせて食べたい食材を選び、好きなお皿に盛り付ける。そんな能動的な食事が健康へと導いてくれます。
・管理栄養士さんのオススメの献立
・お皿に盛り付けると食事をより美味しく感じられます。
お酒の自販機とおつまみ、お酒を飲むコップなどが用意されたカウンタースペースです。昼間は打ち合わせや作業で使い、仕事が終わったらお酒を飲みながらコミュニケーションを取る場所にするなど、自由な使い方ができます。
セミナールームに置いてあるステージや椅子、テーブルには全てキャスターが付いており、バラバラにして移動させることができます。セミナーなどで使う予定が無い間もフレキシブルに空間を使うことができます。
乃村工藝社さんはフェアウッド(合法・持続可能な木材)を積極的に調達して空間づくりを行うための「ノムラ木材調達ガイドライン」の策定、さらには社員や取引先への「フェアウッド応援宣言」の実施もされています。
▶︎乃村工藝社さんの「フェアウッド・プロジェクト」について詳しくはこちら
そんな乃村工藝社さんの新オフィスでは100%フェアウッドを使っており、その中でもスギ・ヒノキを積極的に使用しています。というのも、日本の森林の大部分を占めるスギ・ヒノキの多くが伐採の時期を迎えており、「植える→育てる→収穫する」という森林のサイクルを循環させたり、森林の持つ様々な機能(土壌の維持や空気の浄化など)を維持するためにも、スギ・ヒノキを使う必要があるのです。
新オフィスにて一際大きな存在感を放っているのが、入って正面にある皮付きの杉と桧の丸太です。皮付きで使うと、乾燥が不十分だったり、皮の中に虫が残っていたりして虫が発生するなどのリスクがあります。森未来でも「使ってみたい」と相談をいただくことがありますが、リスクが多いため採用されるのが難しいのが実情です。そんな中で乃村工藝社さんは「じゃあ自分たちで試してみよう!」と自社オフィスを実験台として採用されています。(今のところ大きな問題はないそうです。)この状態で使えるとなると通常の丸太〜製材の流通とは違うルートでの商流となるため、林業家への新しい資金流入の期待もできます。
床にはヒノキのベニヤ板が使われています。こちらも提案するもののなかなか採用に至らなかった案を実験的に採用しています。表面を磨き直したマットな質感が素敵で、コスト、デザイン、サステナブルのバランスが取れています。
また、木材を使うために必要不可欠な工程である『乾燥』途中の木材を窓際のベンチとして使うことで活用しています。天然乾燥には半年ほどの時間がかかるため、その期間はただ置いているだけになってしまうのが課題なのですが、「その時間を楽しもう」という逆転の発想です。
吊るされた大きなスギ・ヒノキ玉の色合いの変化によってその時間を可視化することができるのも、乾燥中の時間を楽しむための工夫です。
また「見た目が悪い」「含水率が高く、乾燥しづらい」などの理由から市場で嫌われている黒芯材のスギを使ったベンチも設置しています。黒芯材は製材しても売れ行きが良くないため原木市場の段階で弾かれてしまい、製材されることなく燃やされたり山に置き去りにされてしまっているのが現状のため、黒芯材を使った家具はとても珍しいものです。活用が難しい黒芯材や端材などの木材を使った空間から、乃村工藝社さんの木材使用に対する思いが伝わってきます。
会議を魅せる
次に見せていただいたのは、アクアリウムやプラネタリウムのように多種多様な会議の様子を魅せる空間、「CONFERIUM」(カンファリウム)です。博物館のチームがデザインを担当しており、部屋の中の明かりとフロア全体の黒の対比が印象的な空間となっています。
また、それぞれ個性的なコミュニケーションが実現するために、部屋によって重心を変えるという工夫が施されています。
最後に見せていただいたのは、デザインワークフロアです。デザインのためのサンプルや資料、ロール紙テーブルなどが設置されています。
壁など至る所で目に入るアートは、用紙やフォントのサイズなどのデザインの参考になる資料が隠されている「使えるアート」です。場所によって照明を変えるなど、シチュエーションを変えてイメージするための工夫も施されています。
それぞれが毎日好きなように過ごしているけれど、全員で体験しながら「ノムラらしさ」を更新していく。自由に働くことでバラバラになるのではなく、まとまっていく。乃村工藝社さんの新オフィスはそんな温かい一体感が感じられる空間でした。
「RESET SPACE_2」は特に木材が多く使われており、「木材を使う」ということがどのようなことなのか原点に戻って考え、体験できる空間でした。丸太や乾燥の工程にある木材、端材や黒芯材のように活用が難しい木材などの多様な木材の質感や変化を身近に感じながら、このオフィスで働く全員がそれぞれの仕事の中で木材について考えていくという乃村工藝社さんの姿勢が伝わりました。
こだわりが詰まったオフィスにワクワクしながら、楽しく見学させていただきました。
改めましてご案内いただいた乃村工藝社の皆様、ありがとうございました!
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