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2021年5月中旬時点でのカナダ西部内陸産SPF製材(№2&ベター)の米国市場価格が1555㌦(製材工場渡し、1000BM、ノミナル)に続騰しました。
2020年4月下旬の価格は310㌦(同)ですから、1年間で5倍に跳ね上がったことになります。
米国では2×4などの規格化された製材は、シカゴ先物市場にも掲載されており、原油や穀物などと同じように、先物市場で取引されていますが、ここでの5月13日先物価格は1800㌦(同)弱、20年4月の300㌦弱と比較して6倍になっています。変動幅が大きいといわれる原油や穀物の先物価格でも1年間で6倍にもなるような事態は聞いたことがありません。それほど、現在の米国市場製材市況が異常な状況にあるといえます。
(こちらの記事は、2021年5月中旬公開のものになります)
跳ね上がった価格はいずれ修正下げの局面にさらされ、新たな市況の混乱が想定されるところですが、現在の状況は過去、誰も経験したことがない水準にあり、今後、どのように変化するか、北米の専門家も見通しも立てられなくなっています。ただ、多くの関係者は現状が極めて異常な状況であることを認識しており、商品先物市場では当然、先安に転換した場合、カラ売り・カラ買いなどの投機的な動きを強烈に増幅させると考えられます。
現在交渉中の日本向けSPF2×4~8(Jグレード)6月積み追加分は既に1500~1600㌦(C&F、1000BM、ノミナル、メーン港揚げ)での成約になっており、提示価段階では1780㌦(同)も出ているようです。今月下旬から第3四半期(7~9月積み)の日本向け交渉が本格化しますが、1700㌦台から1800㌦台突入も予想されます。1700㌦としても昨年底値比で4倍以上の高値です。
前記したように直近の米国市場価格(№2&ベター)は1555㌦(製材工場渡し、1000BM、ノミナル)です。この価格を元に日本向け(Jグレード)SPF2×4~8価格を推定する方法は、SPF製材工場(多くはカナダ西部内陸にあります)のバンクーバー港までの貨車運賃、バンクーバー港から日本の揚げ港までの海上船運賃、バンクーバー港での積込諸チャージなどを加算します。これらの推定合計が1000BM当たり130~150㌦、現在、日本向け40㌳ドライカーゴのコンテナ運賃が前年比2倍(1本2400~2500㌦)に急騰しており、もっと厚めに見る必要もありそうです。
さらに№2&ベターより2段階ほど上級なグレードであるJグレードのプレミアムを付加する必要があります。無理に日本向けJグレードを出さなくても米国市場向けでJグレードに近いMSR製材(機械強度区分製材)グレードが1725㌦(ミネアポリス市場渡し、1000BM、ノミナル)まで跳ね上がっていることを考慮すると、Jグレードのプレミアムは200㌦(1000BM)以上必要になりそうです。
こうした諸条件を勘案すると第3四半期積みの日本向けJグレードがC&Fで1700~1800㌦(1000BM、メーン港揚げ)になっても何ら不思議ではありません。不思議ではありませんが、2×4工法住宅に携わっている関係者はコスト吸収で過去に経験したことのない事態に直面することになります。
日本向けSPF2×4(Jグレード)1780㌦(C&F、1000BM、ノミナル、メーン港揚げ)を元に輸入コストを計算してみます。
まず、米国の度量衡であるBM(ボードフィート)での、みなし寸法(ノミナルといいます)と実際の寸法(アクチュアルといいます)による木口面積差を反映させます。2×4製材の寸法は2㌅×4㌅ですが、実際には1.5㌅×3.5㌅以上あれば強度が確保できるとの考え方が米国にあります。すなわち、みなし木口面積は8平方㌅ですが、実際の木口面積は1.5×3.5㌅で5.25平方㌅となります。みなし面積と実際の面積は5.25÷8=0.65625となります。ただし、この係数は木口寸法によって異なります。
1780÷0.65625=2712㌦(実際の木口面積、1000BM)となります。
次にボードフィートから日本の度量衡である㎥(メトリック)に換算します。
1㎥は424BMなので、2712×424÷1000で計算します。
2712×424÷1000=1150㌦(C&F、アクチュアル、㎥)となります。
この価格に為替、今だと110円をかけると12万6500円(C&F、㎥)となります。
輸入コストを算出する場合、さらにSPF2×4製材の輸入関税(4.8%)をかけ、揚げ港諸チャージ(揚げ港チャージ、横持ち料、上屋保管料、出荷諸チャージなど)合計で2000~3000円(㎥)加算します。輸入元の口銭も数%見る必要があります。口銭を5%(今の現物がない局面で5%は少なすぎますが)として、12万6500円×5%+2000円=13万5000円。これが車上渡し(オントラック)でのザクっとした輸入コストになります。
新設戸建ての2×4工法住宅(2階建て)は、床面積にもよりますが、35坪で20㎥前後の2×4製材(2×4~12製材、2×4スタッド2336㍉長など、4×4土台等)を使用します。これらの材料は2×4コンポーネント、パネル加工工場で実寸に従った長さカット、枠組加工などを行います。この製造コストはまちまちなので、ここでは2×4に絞って原材料コストがどのくらい増加したのか考えてみます。
2020年7~9月期のSPF2×4(Jグレード)日本向け価格は495㌦(C&F、1000BM、ノミナル)でした。当時の為替は106~108円でしたので107円として、円建て輸入コストは
495÷0.65625×424÷1000×107円(為替)×4.8%(輸入関税)×口銭5%+2000円で3万9500円(港オントラ、㎥)、まあ4万円です。
先ほどの1780㌦の輸入コストは13万6500円でしたから、㎥当たり9万6500円のコスト高となります。1棟20㎥使用するとして2×4コンポーネント工場のSPF材料費は20×9万6500円=193万円増加する計算になります。昨年7~9月期に比べ円安となっていることも影響しています。
このコスト高はだれが負担するのでしょうか。通常であればコンポーネント工場から輸入元に泣きが入って何らかの調整もありそうですが、目下の局面では、価格もさることながら現物がなくて住宅が建てられないわけですから、カナダ産地に端を発した極度の売り手市場状態は日本国内でも連鎖し、ビルダーないし施主が負担するしかないということになりそうです。既に建築請負契約を締結している場合、だれが負担するかはさらに厄介なことになります。
建築業界に精通している秋野弁護士は、今回のようなケースでは、価格高騰に伴う請負契約額、納期、材料等の変更に関する合意書を締結しないと、ビルダー、工務店は大変なことになると指摘しています。
既に多くのメディアでも取り上げている点です。今更ですが、背景を整理すると、旺盛な米国住宅市場と米国の歴史的な住宅ローン金利の下降が主因であると考えられます。また、米国向け製材主産地であるカナダの対米輸出の減少、商品先物市場での投機的な動きなども影響していると考えられます。
カナダは2020年、米国に年間58億300万BM(実材積換算係数を68%として約2014万㎥、1BM=0.00236㎥)のSPF製材を出荷しました。カナダ産地の主力はブリティッシュコロンビア州内陸地区です。20年のカナダのSPF製材総輸出は73億4299万BM(同2548万㎥)、米国市場比率は80%弱を占めています。
カナダから日本に輸出されたSPF製材は20年実績で4億2861万BM(同150万㎥)なので米国向け輸出の7%強でしかありません。また、カナダから中国に輸出されたSPF製材は20年実績で8億8464万BM(同307万㎥)と日本の2倍強です。今のカナダ製材産地にとっては米国市場がすべてであり、米加製材貿易紛争により、米国向け出荷に10%近い輸出関税が賦課されても、米国市場ファーストなのです。
今のように歴史的な米国市場の価格高騰が起きている状況では、他のSPF製材市場は眼中にないかもしれません。それどころか、他市場に輸出することで、本来、米国向けに出荷していたら得られていた利益を損なう(=機会損失)経営判断は、株主から指弾され、下手をすると株主代表訴訟を招く恐れすらあります。
カナダを中心に米加から日本市場へ輸出される製材(SPF以外を含む)はかつて、700万㎥規模だったことから、米国市場と並んで最重要市場でした。しかし、現状の日本向け輸出数量では、かつてのような日本市場への位置づけは薄れています。それでなくても日本向けSPF2×4製材(Jグレード)は、手間のかかる規格の最上級グレードを必要とするわけで、付加価値は高いが非効率と判断されているでしょう。
米国の新設住宅着工戸数は、季節調整済み年率170万戸、日本の2倍以上の新設住宅需要が起きています。米国は1戸建て比率が日本と比較にならないほど高く、1戸建て床面積も200~250㎡とかなり広いこと、それに何といっても新設住宅の大半が木造(2×4工法)です。ですから米国の2×4製材需要は日本と比較にならないほど膨大です。
1982~2000年生まれ(ミレニアル世代)比率は総人口の30%近く、住宅取得潜在需要は大きいといえます。少子高齢化と空き家率が増加している日本と対照的です。リーマンショック後、急増した新設住宅及び中古住宅在庫率は大幅に改善されている一方、新設住宅価格は25万㌦以上とリーマンショック以前を上回る水準に回復しています。
米国の住宅取得では、費用の大半を借入で賄います。ですから、住宅ローン金利には極めて敏感で、現状の歴史的な住宅ローン金利安は、中古住宅を含め住宅取得意欲を刺激します。ただ、先のリーマンショックでも、最新の金融工学を駆使した複雑な金融システムが住宅バブルの大崩壊を招いた経験があり、行き過ぎた状況に対しては、連邦政府や政府系金融機関などが主導する形でブレーキがかかると考えられます。
現在、米国の住宅ローン制度は、最も信頼度の高い政府保証付きローン、次いで政府支援住宅ローン会社出るフレディマックおよびファニーメイに貸し出し基準に合致するコンフォーミングローンで65%を占めます。それ以外のローン(ジャンボローンサブプライムローンなど)などは35%前後のようです。今のところ、住宅ローン延滞率(90日以上)は低い水準ですが、新型コロナ感染症問題の影響もあるのか、徐々に高くなっているとの報告がではじめました。リーマンショック時には延滞率が9%前後まで急上昇しています。
カナダ、特に製材主産地であるブリティッシュコロンビア州(BC州)内陸部は90年代末から2000年代初めに起きたロジポールパイン立木への虫害(マウンテンパインビートル)で数億㎥という致命的な被害をこうむりました。
同州に限らず、カナダの州有林は各州政府が管理し、年間許容伐採水準を定め、持続可能な森林経営を第一としています。しかしながら、大規模な虫害が発生したことで、時限措置として被害が拡大する前に立木を伐採する特別許可を出したことにより、BC州有林丸太生産が急増しました。この増加はSPF製材工場の大型化を促すとともに、新しいOSB工場や木質ペレット産業を拡充させました。
しかし、現在、その当時の過剰伐採を調整し、再び持続可能な森林経営とすべく、大幅な州有林伐採削減を実施しています。この結果、複数のSPF製材工場が丸太不足で永久閉鎖となり、BC州を拠点とする複数の大手製材事業会社は人工林資源が豊富な米国南部のサザンパイン地帯に投資をシフトし始めています。現在もBC州内陸の製材生産は慢性的な丸太不足に直面しており、生産能力に対する稼働率は70~85%で推移しています。
米国製材市場の価格高騰を受けて、欧州製材産地も米国市場向けを増やしています。ただ、供給規模は限定的で、加熱する米国製材価格を冷ます力はありません。
ここでは米国市場について述べましたが、世界最大の木材輸入国である中国の動向、また木材需要が伸びている欧州市場の動向もこうした状況に少なからず影響していると考えられます。93年の米国製材市況高騰(ウッドショック)の時、世界の木材貿易において中国はほとんど影響力がありませんでした。今、振り返ると森林環境問題に端を発した93年の米国製材市況高騰では、SPF2×4~8(Jグレード)で600㌦(C&F、1000BM)程度でしたから、実に可愛い値上がりだったことになります。
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