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林野庁がこのほど、令和4年度予算の事業概算要求を公表しました。
それに伴い今回は事業概算要求の背景と、令和4年度の重点事項について詳しく説明していきます。今後国が林業においてどのような目的でどんな事業を展開していきたいのかを知るきっかけとなります。林業従事者の方は、自らの事業を国という大枠の中でとらえ直してみてください。
詳細はこちら 令和4年度林野庁関係予算概算要求の概要
「カーボンニュートラル実現に向けた森林・林業・木材産業によるグリーン成長」と銘打ち、概算要求額は3461億8500万円、令和3年度当初予算額対比で14.1%もの増額となっています。
2050年カーボンニュートラルの実現、脱炭素社会の実現、グリーン成長の実現という国全体の大目標を考えた時、森林・林業・木材産業を管轄する林野庁の役割は大変大きなものとなっており、下記に掲載している重点施策を中心に、方針が具体化された段階で、注目される大型事業も複数登場すると予想されます。
国の2050年カーボンニュートラル、グリーン成長の実現という目標は、農林水産省/林野庁にとどまらず、全省庁に共通した最優先課題であり、今後、他省庁でも、建築物の木造・木質化促進、建築物の省エネ基準性能向上などに関した多くの補助事業が示され、省庁横断型の施策遂行も増えてきます。省益誘導であるとか非効率として批判されることもあったこれまでの縦割り行政からの脱却にもつながる動きだと思います。
国土交通省がこのほど公表した「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの基本的な考え方」は、省エネ性能の確保・向上による省エネの徹底と再生可能エネの導入拡大を目指すものです(下記:上から国土交通省の概要および2050年までのロードマップ)。
このカーボンニュートラルに関する取り組みは国土交通省だけでなく、経済産業省や環境省なども提起しており、関係各省庁に共通した政策課題であることがわかります(下記:上から経済産業省と環境省)。
国土交通省の「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの基本的な考え方」では、2050年(長期)までに目指すべき住宅・建築物の姿については、ストック平均でZEH、ZEB基準の省エネ性能が確保されること、導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備等の再生可能エネルギー導入が一般的となるとしています。
このように、カーボンニュートラル実現に向けた取り組みは今後、様々な施策に反映されていきます。背景には気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書での深刻な現状と将来展望が大きく影響しており、地球温暖化や気候変動がもたらす地球全体の災厄に人類がどう対応していくべきかが問われています。
さて、林野庁の令和4年度事業予算概算要求ですが、予算の内訳、重点事項は下表の通りです。
重点事項
主な重点事項について、詳しく見ていきます。
2事業は、林野庁の最も重要な公共事業です。特に要求額全体の43%を占める森林整備事業は、間伐対策がその大半を占めます。間伐は森林を健全なものとするうえで欠かせない事業です。最大の事業主体である全国森林組合の最も重要な収入源でもあります。
それぞれについて解説します。
森林整備事業における対策のポイントは、間伐の着実な実施に加え、主伐後の再造林の省力化・低コスト化や幹線となる林道の開設・改良を推進するものです。
主な事業目標では、森林吸収量の確保に向けた間伐を実施するとしており、令和3年度から令和12年度までの10年間の年平均45万㌶を目指します。
除・間伐された素材の受け皿の一つとして木質バイオマス燃料という新需要が創出されました。山に切り捨てられる間伐材が大幅に減少し山がきれいになるとともに、建築材料と異なり、樹皮・枝葉・根株なども燃料ともなります。
治山対策のポイントは、流域治水プロジェクトと連携した流域保全対応の治山対策の強化や、同時多発化する山地災害への機動力の向上、津波に強い海岸防災林の全国的な整備を推進するものです。
主な事業目標は、周辺の森林の山地災害防止機能等が適切に発揮された集落を、平成30年度の約5万6200集落から、令和5年度には約5万8600集落を目指します。
近年の異常気象を背景とした豪雨により頻発する山林での大規模土砂崩れ問題は、山地災害で被害を拡大している流木問題と合わせ、治山対策がこれまで以上に重要な施策となっています。この課題も国土交通省など、関係省庁との連携も重要になってきます。
対策のポイントは、カーボンニュートラルを見据えた森林・林業・木材産業によるグリーン成長を実現するため、川上から川下までの取り組みを総合的に支援する形となっています。同事業は川上だけでなく、川中、川下の事業者にも関係してきます。
主な政策目標は、国産材の供給量を令和元年度の3100万立方㍍から令和12年度には4200万立方㍍に拡大するというものです。国産材供給比率(自給率)は令和元年度で38%まで上昇してきましたが、林野庁は令和12年度には48%まで高める考えです。
グリーン成長総合政策
同総合対策の㋐~㋕を見ていきます。
ここでは、新たな技術の導入により、林業の収益性向上を図り、経営レベルで「伐って・使って・植える」を実現できるような経営モデルを構築するとともに長期にわたる持続的な経営を担う林業経営を担う林業経営体の育成を図ります。
政策目標として、主伐の林業生産性を令和12年度までに5割向上するとしています。戦後植林された針葉樹人工林立木は主伐可能な段階まで成長しており、これを伐採し跡地に植林するというる本当に循環する森林の実現が待ったなしの段階に来ています。
ここでは、搬出間伐、主伐と再造林を一貫して行う施業、路網の整備・機能強化、高性能林業機械の導入、コンテナ苗生産基盤施設、木材加工流通施設や木造公共建築物の整備など、川上から川下までの取り組みを総合的に推進し、生産流通構造を改革します。
主な事業内容は、持続的林業確立対策、木材産業等競争力強化対策、林業成長産業化地域創出モデル事業です。このうち、川下に関係する木材産業等競争力強化対策は、木材加工流通施設等の整備、木質バイオマス利用促進施設の整備、特用林産物振興施設等の整備、木造公共建築物等の整備が盛り込まれています。
ここでは、スマート林業や森林資源デジタル管理の推進などを目指します。また、開発技術の実装・環境整備ではICT等先端技術の導入による山元と川下の需給をリアルタイムで共有する、ドローンを活用した苗木運搬など低コスト造林技術の展開、レーザー計測での資源情報把握などを推進してく考えです。
ここでは、都市部における木材利用の強化等を図るため、建築用木材の利用の実証への支援、大径木活用に向けた技術開発等への支援、製材やCLT・LVL等の建築物への利用環境整備への支援を行います。また、川上から川下までの需給情報の共有を図るとともに、地域ごとの生産・流通における課題を解決するための独自の取り組みを支援し、建築用木材の安定的・効率的な供給体制を強化します。
今年度も「JAS構造材利用拡大事業」、「外構部の木質化対策支援事業」などがこの事業枠で実施されました。上記したように、都市部における木造・木質化推進は引き続き、重要施策となっており、国土交通省との連携という形での事業も複数計画されると思います。
21年9月に全木連を事業主体とした「都市部における木材需要の拡大事業」が公表されたところです。都市部を対象としたもので、特に耐火・準耐火木造建築に手厚い助成が付けられています。令和4年度事業でも、こうした方向で具体的な事業が示されると思います。
ここでは、非住宅建築物等の木造化・木質化、木質バイオマスのエネルギー利用、木材製品の輸出推進、流通木材の合法性確認を推進するためのシステム開発に向けた調査などが計画されています。新設住宅市場の将来的な漸減見通しも踏まえ、国は非住宅建築物の木造・木質化、国産材輸出を有力な新規木材需要分野と位置付けており、輸出では、現状の素材偏重から、製品での輸出を伸ばしていきたいとの考え方です。
合法木材に関する確認システム構築に関しては、今年度も入札による事業者募集があったところですが、SDGsの時代を迎え、ESG投資も見据えた時、より信頼性、安全性の高い合法木材が求められます。
広葉樹を活用した成長産業化支援対策事業は、キノコ等の特用林産物との関連で打ち出されたものですが、森林資源の多くを占める雑木広葉樹全般の付加価値活用に向けた取り組みも今後の重要な課題であると考えます。
また、竹の活用も検討してほしいと思います。地方自治体によっては、河川敷や里山山林などで竹が繁茂し、その対処に苦慮していると聞きます。例えば、木質バイオマス燃料等での活用支援も検討課題であると思います。
新規事業です。事業名にあるように、カーボンニュートラル実現への啓蒙、啓発に向けた国民運動を推進します。上記した森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策をソフト面から支援していくともいえます。政策目標として、令和12年度までに国民参加による植樹1億本を目指すとあります。
ここでは、林業従事者、施業者に関する施策をまとめています。素材生産拡大を目指すうえで、林業現場において実際に伐採、造林等の施業を行う人材の確保はボトルネックといえます。しかしながら、林業従事者は深刻な高齢化と後継者難に直面しており、人材の確保がままなりません。
事業目標として、令和4年度に新規就業者1200人、労働安全の向上、令和5年度までに森林経営管理制度の支援を行える技術者を1000人育成することなどが挙げられています。
この事業では、新規就業者に向けては、就業ガイダンスの開催、、林業大学校などで学ぶ人に対し年間最大155万円(最長2年間)の給付金を支援などを導入対策とし、定着化に向けては、フォレストリーダー(現場管理責任者)、フォレストマネージャー(統括現場管理責任者)研修によるキャリアアップ、技能検定制度の創設および支援が示されています。
林野庁の林野関係予算概算要求を見ることで、今後日本政府がどのように日本の林業を発展さていこうと考えているのかが分かります。特に2050年カーボンニュートラルの実現、脱炭素社会の実現、グリーン成長の実現という国全体の大目標を考えた時、森林・林業・木材産業を管轄する林野庁の役割は大変大きなものとなっており、同時に林業従事者の役割も大きなものとなるでしょう。国の予算という大きな枠組みの中で事業をとらえる機会になれば幸いです。
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