[eTREE TALK vol.1] Part 2/「行かんといけない。」天板一枚積んで走る

2020年4月23日

オンライン開催

本物の蕎麦を売っているお店だから。

進行/浅野: 二軒目は埼玉県の浦和にある、高田屋というお蕎麦屋さんです。

吉田: はい。蕎麦居酒屋さんです。東京の方はご存じだと思いますが、全部で40~50店舗ほどあるお店です。もともと昔の古き良き居酒屋さんでして、5,6年前リブランディングの依頼を受けて弊社で設計させていただいたプロジェクトです。

お酒を出すことではなく、ゴマ蕎麦を売ることが彼らの一番重要なミッションでした。この店舗では、特にそれだけをストイックに追求しています。フードコートの中の一店舗なので、お客様との接点は、こちらの写真にもあるこの天板一枚です。天板の素材は杉にしましょう、と僕のほうからご提案しました。

吉田: こちらのクライアントさんは、先ほどのnana’s green teaとは対照的で、傷がついてしまうことをすごく気にされていました。僕は、本物の蕎麦を売っているお店だからフェイクはやめたほうがいいとお話させていただきました。なおかつ固い木でもなくスギをおすすめしたのですが、この時の説得では、たとえ傷んでも一年に一回カンナ掛けでもすればいい、というお話までさせていただいて納得してもらいました。

「行かんといけない。」鳥取から埼玉まで、天板一枚積んで走る

浅野: 鳥取のお話なら地元の坂本さんに依頼するのは分かりやすいですが、この店舗は浦和なので、坂本さんを指名してお声がけしたということですね。

吉田: はい。僕はもう一度一緒に仕事がしたいなと思ったので、声をかけさせていただきました。

浅野: 以前吉田さんに、この時坂本さんが天板一枚をご自身の車で運んできたと伺いました。嘘でしょ、と話していたのですが、坂本さんこの時はいかがでしたか。

坂本: これ確か、4500か5メートル近くあって板がとても長かったんですよ。今でも覚えています。通常、2トン車でも長さが3メートルまでで、だいたい4メートルまでしか自分で運べないです。それを超えていたので、何かしらの運搬で行かなきゃいけないという事情がありました。でも、僕がうれしかったのは、図面が送られてきて、そこにうちの名前が書かれているわけですよ。ここの天板は(株)坂本って。そうやって指名していただいていたら、まあ、もう行かんといけないでしょうと。ほかに手立てがないと思ったので。真夜中12時に納品でしたし、今だったらもう少しほかの手段を考えるかもしれないですが、その当時は僕が走る以外に届ける方法を思いつかなかったので行かせていただきました。

浅野: 気づいたら東名を走っていた、みたいな感じでしょうか。

坂本: いや、でもそれかっこいいですね。

吉田: どのくらいかかったんですか?

坂本: 距離的にはだいたい7,800キロくらいです。時間にするとまっすぐ行けば14時間もかからずに行けます。

吉田: いや、すごい。

坂本: その時は、納品だけではもったいないので、打合せの予定を入れました。昼間打合せして、夜に納品を。

急なご依頼でもきちんと対応する、それが当たり前

浅野: 皆さんから、コメント欄に質問が届いています。木材の乾燥方法が気になるみたいですよ。

坂本: うちの乾燥機は、コンテナ型といいますか、ウナギの寝床みたいな長細い乾燥機です。その当時は長さが12メートルまでの木材が入るものを持っていまして、その乾燥機で乾かしました。しっかりと自然乾燥をたっぷりした後で、温度が60度まで、人間が入っても全然大丈夫なくらいの湿度と温度で、木材を焼かないようにしながらしっかり乾かす。これがうちの乾燥の方法です。もちろん、高温で80度や120度で乾燥する方法もありますが、温度を上げすぎると、どうしても杉の木に焦げたような色がついてしまいます。それはそれでかっこいいですが、このころは温度を上げすぎないことにこだわって、ゆっくり乾かしていました。

浅野: 在庫として板があって、注文が入ってから乾燥庫に入れるのですか?

坂本: いえ、ある程度は先に乾かしておきます。なるべくリードタイムが短くなるように設定しているからです。東京では考えられないかもしれないですが、田舎は坪単価が安いので大きな倉庫があって、そこにいろんな材料の乾かしたものをストックしています。多少急なご依頼でもきちんと対応する、それが当たり前だと思っています。納期が楽にある仕事は、こういった店舗のお話などでは基本ないだろうと考えており、そのような場合でも応援できるように、ある程度の在庫は持とうと思っています。

浅野: 依頼が来てからは、乾燥機に再度入れるのでしょうか?

坂本: ものによります。室内で使うものなら、暖房がかかって乾燥した環境を想定して、それでも反らないようにしっかり乾かします。そうでないものもたまにはあったりします。

浅野: そうなんですね。納期についてもお伺いします。先ほどのnana’s green tea さん、高田屋さんのお仕事では、木材関係のスケジュールはどのような感じでしたか?

吉田: 高田屋さんだと三週間はありました。お店を作るときはそういう感じになるのですが、納期が短いですよね。

坂本: 慣れたら、そんなもんかな、って感じです。

浅野: 僕もあまり詳しくないのですが、商業設計の世界では、お話が来てからデザイン設計、着工までのスケジュールはどのような感じでしょうか。

吉田: お店のほうが住宅より短いです。デザイン自体は二か月前から決まっていることもありますが、業者さんが発注かけるまでにまた時間がかかるので。最終的にゴーが出て発注をかけるときには、三週間から一か月ほどの納期になってしまっているんだろうなと。

浅野: 設計は比較的早期に終わっていて、調整して発注をかけるまでがぎりぎりになってしまうんですね。

吉田: 発注をかけるのは施工業者なので。最終的に金額を詰める段階ではまだ発注しないでしょうし、直前までいろんな数字を調整しているのかなと思います。

坂本: 発注から納品まで、だいたい一か月弱です。

吉田: そこが、坂本さんのような、やってみましょうと言ってくださる方がいなくなる理由だと思いますけどね。僕らのせいで、納期が厳しくなってしまって。

浅野: 材木屋さんによっては絶対無理だと一蹴されるケースもよくあります。皆さんからコメントが届いています。「吉田さんのデザイン空間かっこいい」。「コロナ収束したらお店行ってみたい」。

吉田: ありがとうございます。ぜひぜひ。

万が一何かあっても、きっと協力してもらえる

浅野: 次にご紹介するのは、高田屋さんの池袋店です。

吉田: 坂本さんはウッドブラインドを自社オリジナルで作られています。しかしこの時は、ウッドブラインドの材料だけを分けてくれ、というなかなか失礼なお願いをしました。

この店舗は地下の飲食店で換気が悪く、湿度が高いので、このような薄いブラインドにしてしまうと反るのではないかと心配していました。ウッドブラインドを扱っている業者さんは複数知っていましたが、その時に坂本さんの工場見学に伺った時のことを思い出したんです。絶対に反らない、と言い切っていたなと。正直なところ話半分で聞いていましたが、以前の仕事で信頼関係が築けていたこともあり、万が一何かあっても協力していただけるだろうと坂本さんにお声がけしました。

長さ2メートル超でも、今では反らないように作るのが当たり前

浅野: この長さ、この薄さだといくら乾燥させても反るんじゃないかと思ってしまいますが、実際に反らないんですか?

坂本: 寸法でいうと薄さ6ミリ、幅90ミリ、長さ2メートル以上です。僕はこの店舗に食べに行きましたが、全然反っていなくてきれいだなと思いました。実はブラインドを2000年くらいから作り始めたんですが、当時は実は反ることもありました。どうすれば反らないように乾燥できるのか、斜めにしたり横にしたり立てたりと試行錯誤して、今では反らない加工ができるようになりました。今では逆に、木が悪い場合を除いて、反らないように作るのが当たり前です。

浅野: 反らないように作るのは、乾燥と製材どちらの段階の問題なのでしょうか。

坂本: 全てです。緻密に絡み合っていて、一つのファクターだけではないです。

吉田: それは企業秘密なんですね。

坂本: そうですね。実は吉田さんが見学にいらしたときより、今はパワーアップしています。工場を吉田さんのように舐めるように見ていかれたらばれてしまうと思いますよ。またぜひ見にいらしてください。

浅野: 私もぜひ見学させてください。

坂本: 今ご覧になっている方も工場に来ていただいて構いませんので、ぜひ、智頭町に足をお運びください。

浅野: 坂本さんが東京にいらしたら、帰りは助手席に同乗させてください。

坂本: 無料のタクシー代わりに使っていただいて。

クライアントさんの出したいものと空間を、同じクオリティにしたほうがいい

浅野: こちらのカウンターは、ウレタン塗装などしてありますか?

吉田: 実は、一年に一回カンナがけすれば大丈夫なので、ウレタン塗装しないでおきましょうよ、と提案したんです。一年ごとに塗装屋も大工も頼むと、倍のお金がかかりますし。でも、結局はウレタン塗装していましたね。

浅野: 納品後は実際に傷がついたりしているんでしょうか。

吉田: ほかの材料でも同じことが言えますが、日本人だけなのかもわかりませんが、すぐ傷つく建材を入れると逆にみんなが気を付けて傷つかないんですよ。不思議ですが、危うい材料にしたほうがきれいに使ってもらえることが多いです。

浅野: 結果としてオーナーさんも不満はないのでしょうか。

吉田: はい。ただこの店舗に関していうと、事業方針が変わった影響で、既に閉店しています。高田屋さんはてんぷらを本当にまじめに作られますし、そば粉もお店で打って作られています。フードコートでは割に合わず、時間も追いつかないということで、残念ながら閉店してしまいました。池袋店は元気に営業しています。

浅野: カンナ掛けするなどメンテナンスありきで提案するときは共感してもらわないと大変だと思いますが、どのように説得したのでしょうか。やはり最後は熱意が大切ですか?

吉田: そうだと思います。共感を持ってくれるかどうか。

浅野: 僕も、設計者ありきだなと感じることがあります。僕が設計者の方に木材をご提案しても、新建材を使うというオーナーの意向があるので、と言われてしまうとそれ以上はご提案できないです。そこに対して設計者さんの思い、こだわりがあれば。例えば先ほど吉田さんが言われていたように、本物の蕎麦を売っているお店ならば本物の木を使ったほうが良い、と言い切っていただけると木を使っていただけることが多くなるのかなと思います。

吉田: 新建材が全て悪いわけではないですが、クライアントさんの出したいものと空間を同じクオリティにしたほうがいいと思います。

浅野: そこに関しては妥協しないということですよね。

吉田: はい。ちゃんとしたものを使ったほうがいいかと。

浅野: 以前、吉田さんに、こだわらない素材はあるのでしょうかとお伺いしたら、こだわらない素材などない、と言い切っておられましたよね。

吉田: はい、こだわらない素材はないです。

掲載した店舗写真は全て、株式会社KAMITOPEN公式ホームページから引用させていただきました。

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