eTREE TALK
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記事公開:2022.11.4
2020年7月09日
オンライン開催
7/9(木)、eTREE TALK vol.3「木を空間で使うクリエイターの裏話」をオンラインにて開催いたしました。トークセッションの様子を全三回に分けてお送りいたします。
ゲストにお迎えしたのは、株式会社乃村工藝社の鈴木恵千代様と、有限会社加藤木材 加藤政実社長。なんと尾鷲香杉の製造元、畦地製材所の畦地様も飛び入り参加! 香りを持つ木の魅力や木材への熱い思いをお話しいただきました。( 進行:株式会社森未来 代表取締役 / 浅野純平)
司会・浅野: 恵千代さんは、2008年のAPECの仕事まではあまり木を使った設計はされてなかったんですか?
鈴木恵千代さん(以下、鈴木): 2005年に大手町カフェという環境カフェを手がけました。
その時から、空間のあらゆる部位に意味を込めることを考え始めていました。しかし、その時はまだ木材の問題にまではいきついていませんでした。その時には環境の話といえばとにかくエネルギーリサイクルで、森林にまで思い至らなかったです。
極端ですが、その時に使っていた木はラワンベニヤでした。ラワンベニヤの色がきれいだなと思って、そのままでも使えるものならそのまま使いたいと、棚にわざわざラワンベニヤを貼ったりしていました。でもそれが大きな間違いだったと後で気が付きました。要は、極端な森林伐採をして生産されている材料だったので。許しちゃいけない代物を使ってしまっていたんです。
経済が傾いてお金が回らなくなると、社会では新しいリサイクルマテリアルが全然出なくなりました。もう一回考えなきゃいけないと思っていた時、1つ講演を聞いたんです。小松正之さんという水産庁の方で、世界でも百本の指に入るようなネゴシエーターなのですが、その方が海の話をしていた講演会で、海はいわば砂漠の状態になっていると知りました。これはやばいと。CO2よりも海の方が大変なんだと気付いて少しやり始めたら、海に流れ込む川もやらないとだめだということになり、それだけでなく、海は森の恋人と言われるように森から栄養が供給されるから海が豊かになるという話になり、森に焦点を当てるようになりました。
森って、あらゆる本を読んでもどんな森を作ったらいいのかがちっとも分からないんです。林野庁の白書を見ても、どういう風にするのかは書いてない。あまりにも見えないんです。そんな矢先に初めて出会った本が「奇跡の杉」でした。わりと最近で、十年くらい前からです。
浅野: 大手町カフェがあって、その辺から環境を意識し始めて、APECの案件で奇跡の杉をちょうど使われたという流れですね。そのあとで2015年、加藤さんとの次の物件でもある3×3 Lab Futureにつながっていくんですね。3×3 Lab Futureの仕事は、どのように恵千代さんにお話があったのでしょうか。
鈴木: 三菱地所さんのコミュニケーションスペース3つに関わらせていただきました。初めは大手町カフェで環境問題を扱い、次は環境を実証化するような場所としてエコッツェリアというのがあり、その流れで3×3 Lab Futureもやらせていただいています。最後の3×3 Lab Futureの時はCSVという「三方よし」という考え方の時代になっていたので、CSVの発信拠点にしましょうと。今それがSDGsの流れにつながっています。
3×3 Lab Futureはギャザリングする場所で、いろいろな人が新しい組み合わせでイノベーションを起こしていこうという、都市の中のリビングみたいな場所です。これをサードプレイスと呼んでいます。ファーストプレイスが家、セカンドプレイスが会社で、3×3 Lab Futureはサードプレイス。大手町のど真ん中にあり、その場所で働いているいろんな方が混ざり合ってイノベーションを起こすために話をする場所です。このような役割を果たすためには、滞在時間をどう長くするかが大切です。居心地が良く、長時間いられる空間。当然そこには木が必要でした。
浅野: 加藤さん、3×3 Lab Futureについて、どういう感じに恵千代さんからお話が来たのでしょうか。
加藤政実さん(以下、加藤): 恵千代さんはプロデューサー兼監督兼主演みたいな感じで、オーダーが来た時、なんかすごいなこの人と思ったのは覚えています。
物件の前に僕は情報を出したに過ぎないと思うんですよ。スギの赤身って今はこういう香りもしないスギは多いですけどこうですよとか、もうちょっとグラマラスに育った百年くらいの杉があるからその香りを使いませんかとか。それを見事に具現化したデザインにしてオーダーをいただきました。
印象的だったのが3×3 Lab Futureのレセプションのカウンターです。木の香りはほとんど小口から出ていますよとお伝えしたところ、本当に小口をバーっと出すようなデザインにされていました。たしか実際の樹齢でいくと130年くらいのスギでしたね。
あとは、備蓄機能を持った椅子にスギの赤身を使われていました。スギの赤身はつややかで座っても心地良いです。さらに物の保存にも向いています。例えば、宝物を保存している正倉院はヒノキの校倉造が有名ですが、ヒノキはネズミが嫌うので建物にはヒノキが使われています。しかし、実は全部の宝物がスギのからびつに入れられているんです。100年、150年くらいのスギは物の保存にとても良いのです。
鈴木: たしか、最初に加藤さんからスギとヒノキの違いを聞いていたんですよね。スギは人の気持ちをリラックスさせる、と。加藤さんのところはベッドや枕を作っていますよね。家の寝室にスギを使うとものすごく良いんだよ、と教えていただきました。
ヒノキには、緊張感を与えてキリッと凛々しくさせる効果があります。だから昔から、貴族にしても武士にしても、執務室はヒノキで、リラックスする場所はスギで作っています。そう考えると、お出迎えするレセプションは皆さん緊張して入ってくるからスギの香りで癒してもらおう、いろんなものを備蓄するには災害対策の拠点にもなっているから古来の話にも準じてスギを使いましょう、と考えが組みあがってくるんです。だから話をいろいろ聞いてかないと。
浅野: 木のストーリーや特性も理解されたうえでデザインに落とされていますよね。
鈴木: デザイナーが木のカタログだけ見てデザインしている状況だとだめなんですよね。
カタログを見ればいろいろな種類の木がありますが、分かるのは重さくらいで、木そのものを知らない限り本質にはいきつかない。それを使うってデザイナーとしてどうなのよって。なかなか若いころはそこまで行きつかなくて、木を指定するのにただの硬木って書いていましたからね。硬い木で下地作ってください、みたいな。そんな失礼な話はないですよね。山の畦地さんと出会って、加藤さんともつながりができて、育てて加工する人たちといろいろな話ができたことが良かったと思います。大工さんや木材加工業者さんだけとしか話さないと、やっぱり少しノウハウが狭くなってしまいます。
木を扱うのって本当に奥が深いんです。
こんなエピソードもあります。無垢のスギはある程度撥水しないと飲食店のテーブルの天板になかなか使えない。でもスギの上にウレタンとかかけたくないじゃないですか。できればワックスもかけたくない。スギのピンクのきれいな色をそのまま使いたいから、撥水性のあるワックスでも、スギの色があめ色に変色しないものはないか探しました。そうしたら誰に聞いてもないというんですよ。そうなっちゃうんですって。僕が一生懸命いろんなとこから買ってきて試したら、なんのことはない、ホームセンターにあるワトコウワクスさんのナチュラルホワイトというものを塗ると、撥水できて色は変わらないんですよ。それを加藤さんに知っていますかと聞いたら知らないというから、意外だな、みんな知らないんだなと。身近なところに解決する方法は転がっているなって思ったんですよ。ということは、今の日本人の設計士さんも木を一生懸命扱っている人も、まだまだ知らないことが多いんだろうと思います。多分。
浅野: さっきのカウンターのところを深堀りしてお伺いしたいと思います。この写真のように、小口がこう向いているんですよね。
加藤: そうです。小口は木が生えている時にお天道様と地面に向かい合う面で、電子顕微鏡で見たらハチの巣みたいになっています。木は緩やかな円錐形で僕らは真っ直ぐにしか使えないから、板目の切り口にも点々はあるんだけど。ほとんどは小口から香る。こんなことを食事しながら話しました。設計による成分保持、香り保持こそ、僕と畦地のコンビがやっていることの続きなんですよ、と。その後大学などの研究でも、小口から匂い立つような鎮静効果を持つ香りが出てくると分かってきました。
ですから、この図面を見た時、僕らは感動しましたよ。恵千代さんはなんでこんなことしたんだ、そういえばあの時の話じゃないかと。
浅野: ちょうど今、参加者の中に3×3 Lab Futureの方がいらっしゃるようです。
参加者の方: 今、3×3 Lab Futureから参加しています!ちょうどレセプションカウンターの近くにいます。映しますね。
浅野: ありがとうございます。
鈴木: この時は、ちょうど売れ頃の、正角(注:しょうかく 横断面の一辺の長さが7.5cm以上の正方形の角材)ができる木が山に出来上がっていますよと伺って。90角の正角を4つ合わせて、180カップのキューブを作っています。
浅野: これは芯去り材(注:樹芯、髄をはずした材のこと。割れにくい)ですかね。
加藤: はい、芯去り材です。
浅野: 全然割れてないですね。この小口から香りが出るってことですよね。
参加者の方: 皆さん、すごくいい香りだと言ってくださいます。
浅野: 今でもいい香りなんですね。先ほどのコンセプトで、サードプレイスとして長時間いられる場所にぴったりのデザインを落とし込んだものがこのテーブルなんですね。
鈴木: そうですね。香りでお出迎えしたいからこの独特な形になるんでしょうね。できればみんなマネしてもらいたいと思っていますが。
浅野: すばらしい。
鈴木: 最近は意匠法で、意匠登録するからマネしないで、みたいな風潮があるけど、僕はその考え方大嫌いなんですよ。いいものをマネしないと木のものって広がっていかないでしょ。フィレンツェや京都がきれいな街なのは、みんなマネしたからですし。それなのに意匠法でデザインをマネするなというのはどうなんでしょうか。こういうデザインだと香りがしっかり出てくるから、良ければどんどんマネして香りを楽しんでもらいたいと思います。
浅野: このカウンターは栗でしたっけ。
鈴木: 栗です。長野県の有賀さんという方にお願いしました。有賀さんとの出会いも本からでした。東北大学の教授である清和研司さんという先生が書いた、「多種共存の森」という本です。
森のことというのはいろんな本を読んでもよく分からないのですが、「多種共存の森」では、複雑なんだということがよく分かりました。その「多種共存の森」に、針葉樹も広葉樹も全部ひっくるめて森だから、そこを考えないとだめですよという示唆があって。そこに有賀建具店の有賀さんはすごく面白い広葉樹の使い方をしているって話も書いてあったんです。それで有賀さんのところにお話しに行きました。根掘り葉掘りいろんな事を聞いていく中で、ここには給茶キッチンというキッチンカウンターを中心にしたコミュニケーションをとれる空間を作ろうと思っていたので、食にまつわる木がいいんじゃないかなと考えました。例えばクリとかないですか、と聞いたら、クリの、90ミリ厚くらいで長さが4500、ワイドは80か90くらいの板がありました。それを使って作ることにしました。
有賀建具店
建具・家具職人 有賀建具店 有賀恵一さん
>>> https://kino-ie.net/interview_201.html
浅野: 食卓テーブルになぞらえているので、クリの木を選んだのですね。
鈴木: はい。クリやトチ、クワとかです。やっぱり食にまつわる木がね。イチョウでもよかったんですけど。
浅野: 参加者の方が映してくださっています。ありがとうございます。デザインとして、黒いラインをいれられたんですね。
鈴木: はい。それは古代栗です。埋没の神代栗で、たまたま新潟に粟野側から出たやつがあって、同じ栗でも黒いのもあるよと言われて。それを剥ぎ合わせて使いたいと言って、間に入れました。
#食にまつわる木
神代(ジンダイ)とは?
神代とは、はるか何千年も昔、火山の噴火などによって地中に埋められてしまっていた埋もれ木の名称です。数少ない貴重な銘木として、神代木とも言われています。中には火山灰だけでなく、川底に何千年も前から埋まっており、河川工事などによって掘り起こされることがあります。
鈴木: こういう材はなかなか出てこないんです。今これと同じもの作ろうと思っても、山って生き物だから、同じようなものがしょっちゅう取れるわけではない。ですから、いつもいろいろな材木屋さんや山の方とつながりを持っていないと、面白いことはできないんです。
浅野: この後ろの背景の羽目板はなんでしょう。
鈴木: 羽目板も有賀さんのです。彼は、広葉樹をたくさん取っておくんです。通常ならチップにして燃やされてしまいそうなものでも。木材のサンプルがとてもたくさんあって、こんなに種類があるのかと驚きました。それを全部使った建具を作りたいですとお話しました。お願いして、木の一枚一枚全てに樹種をプリントしてもらいました。後から有賀さんに聞いた話なのですが、あそこに使った樹種は全部で100種類もあったそうです。彼もびっくりしていました。僕も2,30種類だと思っていました。
浅野: 参加者の方が映してくださっています。ありがとうございます。
加藤: そうなんです。これ全部に名前を書いてくれと言われました。
鈴木: 特に漆とかはすごく黄色い木だから印象的になるでしょ。漆の木でそんなに長い材があるのか不思議でした。聞いたところでは、山の木というよりは里山から降りて家の近くにある漆は結構大木になっているところが多くて、漆も三メートルちょっとのものがとれるそうです。
浅野: ちょうど私のところに有賀さんから頂いた木材サンプルがあります。これは漆ですね。黄色みがかった色です。
鈴木: 清和先生の本を読んで面白いなと思ったところです。この漆で3×3 Lab Futureの庭を作りました。
あとは、光のガーデンというインドアガーデンを作りました。室内にグリーンを入れて空間を作るのは15年以上やっているので、次はどうしようかとちょっと悩んでいたんですね。ちょうど清和先生の本で、多種共存の森に理想的なのは針広混交林だと書いてあったので、針葉樹と広葉樹を混ぜた庭にしました。そうすると画一的なグリーンではなく、ちゃんとした、生き生きとした緑になりました。
針広混交林
>>> https://bit.ly/2O9S5zC
浅野: 適材適所で材料を選んでいるんですね。
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