eTREE TALK
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記事公開:2021.11.4
2021年6月29日
オンライン開催
木を空間で使うクリエイターの裏話を聞き出す「eTREE TALK」
建築家・デザイナーが手がけたプロジェクトの実例をもとに、クリエイターと対談形式で行います。
” vol.6 “のゲストは、株式会社船場 一級建築士 成富法仁様。エシカルをテーマにお話を伺いました。
成富様は、商業施設設計からキャリアをスタートし、近年ではワークスペースのハイコンテクストな設計ディレクションを中心に手掛けています。
船場本社での新プロジェクト「Semba Ethical Design Thinking」でプロジェクトリーダーを務め、プロジェクトを推進。「Semba Ethical Design Thinking」の第一弾として、船場本社オフィス(GOOD ETHICAL OFFICE)をリニューアルしました。今後も「Ethical Material Digital Catalog」や「CIRCULAR RENOVATION™」など、次々とプロジェクトをリリース予定です。
今回のeTREE TALKでは、実際に手がけられた事例やリサーチを元にお話ししていただきました。
(敬称略 / 進行:森未来代表 浅野純平)
成富: 株式会社船場のエシカルデザイン本部に所属しております成富と申します。デザイナー設計者として活動しています。
大学では建築学科に所属していました。内装などの空間デザインをやってみたいと思い、船場に入りました。ちょうど就職氷河期でした。
最初は小さいお店や展示会の仕事が多かったです。そこから大きめの店舗や銀行さんのご依頼を受けるようになりました。働き方改革の影響で、オフィスの依頼も増えています。
主に10~5000平米までの空間を手がけています。
後でお話するエシカルの話題に関わってくるのですが、私がデザインする空間の寿命は、短いと展示会などで3日。長ければ10年ほどで解体されることが多いです。そして、この10年間で私が作らせていただいた空間のなかで、存命している空間の割合がだいたい30%くらいという感覚です。
次に、僕がエシカルに目覚める前に、木材をどれだけ使ってきたかを正直に申し上げます。プリント材(壁紙、床材、化粧板など)が6割、集成材が3割、無垢材は1割くらいだったのではないかと思います。これについては色々考え方があると思いますが、在庫や納期、メンテナンスや強度の問題から、比較的大きい企業さんほどプリント材の利用が多かったように思います。また、さかのぼればさかのぼるほどプリント材の利用が多かったです。
若手の頃は展示会をやらせていただく機会が多かったです。こちらの数字は展示会の場合の、平均的な「期間の比」を示しています。
展示会の仕事は極端に言うと、計画に6か月、製作に1か月、使われるのは3日というイメージでした。
悲しい日々を送ってたな、という感じですね。
成富: やっと空間として寿命が長いものをやれるようになったきっかけはコンペでした。
SNS系が伸びだした頃です。アメブロとかです。Abema TVの前身のAmeba Studioのコンペをとらせていただき、張り切りまくってやってました。
こちらは同じくIT企業さんのオフィスです。
企業理念や社内カルチャーを大切にしており、ユニークで、素材をがっつり使うデザインになりました。
浅野: 少し主題とは離れるかもしれませんが、どのようにアイデアを出していったのでしょうか。
成富: この時はセッションをして、会社の行動指針を表現するデザインをご提案しました。例えば、絆というテーマであれば縄で編んでいく内装にする、「スピード感を大事に」ならキラッとしたものをストレートに並べるご提案をする、といった感じです。言葉とアウトプットを行き来して案を練りました。
これも企業さんのオフィスの中に作ったライブラリーです。北海道のシナ材を使った合板を使用しました。
ここでは、自分の居場所を見つけられる場所が欲しいとのことで、山や野原のような、自分の居場所を見つけられる情景を目指しました。木の組み方が複雑で、下地図がかなり大変でしたし、現場にはりついて指示をしていました。大工さんも大変そうでしたね。
これ、不燃だよね?という言葉をめちゃくちゃ聞き始めたのもこの時期です。震災の影響もあり、建物事業者さんも安心安全面にシビアになってきていたので。建築基準法上で不燃じゃなくていいところでも、不燃指定をすることが増えてきました。
これはスカイツリーの中のオフィス棟のリフレッシュスペースです。
不燃材を使いました。リズムをだしたかったので、ガラス素材で木肌を表現したものも使っています。写真では見づらいですが色が濃く見える部分です。この時は、樹脂を含侵させる際に時間がかかりました。けっこうな量が必要だったので納期に間に合わせるのが大変だった記憶が残っています。
浅野: こちらの設計のアイディアはどうやって決まったのでしょうか。
成富: まず、リフレッシュする場所なので木と親和性が高いと考えました。そしてスカイツリーは東京のシンボルなので、多摩産材を使いました。喫煙所は焦げるので、不燃材で樹脂を含侵させれば焦げづらいという特性を活かすことができ、これはいいなと思ってご提案させていただきました。
EC系の台頭の影響で、本が売れなくなった時期でもありました。こちらのカフェのような写真は本屋さんです。本と雑貨を扱っていて、一角にカフェも併設しています。複合業態がいろいろあった時期でした。
これも本屋さんです。化粧板、プリント材を使っています。人が行き来する動線のところは無垢材を使いづらいこともあり、プリント材を多用していました。
こちらはロープライス型の眼鏡屋さんです。
商品をよく見せたいので白っぽい作りにしているのですがお店のアイコンとして木を使っています。突板を使いました。
浅野: このような素材を使うときって設計者の方から指定したりするんですか。
成富: 指定します。事前に何個かサンプルを作ってもらって組み合わせたりしています。大事です。
これは銀行っぽくない銀行を作ってほしいということで、地方創生をコンセプトにしています。
なかなか、銀行に行こうと思ってもらえることが少なくなってきており、なんとかしたいということで、お客様が来たくなるようカフェのような銀行はどうですかとご提案しました。
銀行はいくつか手がけましたが、実は統合などでもうなくなってしまっているものもあります。銀行って、かつては30年くらい町のインフラとしてどーんと構えるものでしたが、今では、それこそ3年4年くらいでなくなる瞬間も出てきてしまう。時代の変化ですよね。
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