サステナブル
この記事をシェアする
林業の活性化における課題のひとつに、大径材の活用があげられます。日本の森林では、供給原木が小・中径材から中・大径材へと変遷を遂げていき、その加工や活用の方法を模索する中でさまざまな壁に直面しています。そこでこの記事では、大径材活用についての問題点や現状を、実例も含めて解説します。
目次
日本の森林では、戦後大造林されたスギやヒノキの多くが主伐期を迎えています。スギで言えば35〜50年、ヒノキだと45〜60年が標準伐期齢とされるなか、それ以上の樹齢になる木材の活用について、さまざまな議論がなされています。
参考:林野庁
大径木に正確な定義はありませんが、主に伐期を過ぎた立木を指すことが多いです。また、労働安全規則第36条第8号によると、胸高直径が70cmを超える、かつ、重心が著しく偏している立木の伐木などの業務には特別な教育が義務付けられています。そのため、一般的に大径木は胸高直径70cmを超えた樹木と定義されるケースもあります。
そして、大径木を丸太にした場合、細い方の切り口、すなわち末口が径36cm以上の材を一般的に「大径材」と呼びます。また大径材は別名、役物丸太とも呼ばれます。
参考:コマツ
大径木に対して、小径木と呼ばれる木もあります。一般的に小径木は丸太の末口が14cm未満の木で、主に間伐時に生産されることの多い木材です。これまで家具や柱などに加工するにはサイズが細く向かないため、細かく砕いてチップなどにされることがほとんどでした。最近では、川沿いの木柵や山道の転落防止策、「足場丸太」として建設現場や文化財の修復工事などで使われる他、子供向け遊具への利用など、積極的な活用が進められています。
大径材の活用が進んでいない理由は、加工機械の制約や需要の変化など複合的な要因が絡み合っています。
基本的に木材乾燥は、製材品が大断面になるほど難易度が増します。つまり、ラミナや板材よりも柱や梁を乾燥させる方が難しいのです。
乾燥は木材の品質を決める重要な要素で、乾燥が十分にされていないと木材の収縮や変形などにより、建築後に重大なリスクを負うことになります。そのため、大径材を乾燥させるには高度な技術が必要になります。
現在、木造住宅でも国産材活用が進んでいるなか、横架材だけが外国産の集成材やベイマツ平角が大きなシェアを占めています。大径材は大きな断面での製材が可能なため、平角の梁や桁など横架材として、外国産材にとって代わる役割を期待されています。
一方で、横架材にはヤング係数などの強度特性、含水率などの寸法安定性といった品質の確保が求められます。しかし、現状、大径材の強度特性をはい積み前に把握することが難しく、求められる品質(強度)に対応できないケースがほとんどです。
大径材の活用に向けて、林野庁では製材工場に対し、効率的な木取りができる製造ラインの導入を支援しています。また、森林研究・整備機構では乾燥技術の確立に向け、技術開発を実施するなど、各方面から課題解決に向けた取り組みが始まっています。
丸太段階での強度が分からないことが活用へのネックになっていることを受けて、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は「国産大径材丸太の強度から建築部材の強度を予測する技術の開発」を実施しました。これまで小・中径材のヤング係数は、対象物を打撃する方法で求められ、丸太と製材品の係数には高い相関性があることが分かっていました。この研究をもとに大径材の製材品についても、木取りの影響などを含めた上でのヤング係数と強度の関係を解明することに成功したのです。その結果、大径材の丸太段階での強度を90%の確率で予測可能となりました。
県土の70%以上を森林で占める大分県では、主伐期を迎えるスギの面積が約11万3千haとなっています。このスギを有効利用するための技術として、1本の木から複数の角材を芯去りで木取りする技術やその品質について研究を進めています。
その結果、芯去り正角で木取りをすると、割れも曲がりも少なく、強度も基準値を満たすことが分かり、効果的な大径材活用方法であることが示唆されました。一方で、曲がりの修正のために歩増しを大きくする必要があり、コスト面で不利になることが予想されました。
東京都の街路樹は、明治6年に銀座通りにクロマツとサクラが植えられたことを皮切りに、明治8年には千代田区にニセアカシアが、戦後の復興期には道路整備に伴って成長の早い樹木が植えられました。現在、東京ではあちこちで大径化した街路樹が見られます。
災害時における街路樹の役割は、倒壊物の支持、熱風・延焼の防止などがあげられますが、これらは樹体が健全であることが前提です。そうでなければ根枯れや虫害によって風や地震に対する抵抗力が低下し、倒木する危険性が高まります。それを避けるために、東京都では大径化街路樹の診断、そして再生を目標にすることで、災害に強い都市作りをめざしています。
参考:大径木再生指針(東京都)
愛媛県では、県内の人工林が大径化していることを受けて、その活用を進めるべく、大径材生産促進事業を実施しました。森林組合や林業事業者を対象に、林業機械の改良、集積場所の確保や生産管理機材の導入などにおいて、大径材の活用を目的とした事業に対して一定の補助金を支給するというものです。
注目すべきは審査項目の中に、大径材の生産促進とあわせて、林業におけるサプライチェーンの強化も含めたという点です。大径材を持続的に活用するには、川上から川下までの連携が不可欠と言えるでしょう。
大径木の活用に対して行政支援などの取り組みが進むのと並行して、各企業や事業体がそれぞれの特性を生かした活用を進めています。この章では、大径木を活用した実例について、ご紹介していきます。
静岡県浜松市にある株式会社フジイチでは、2021年冬に大径材の加工効率を上げるために新しい製材機を導入しました。芯を除いて加工する「芯去り材」の増産を可能にした新製材機の導入で、製材量の倍増と従業員の安全性が高まりました。植林から製材までを手がける同社の強みを生かした取り組みは、地域林業の課題解決の参考となる実例と言えるでしょう。
参考:あなたの静岡新聞
宮崎県宮崎市の木花こども園では、林野庁が中心となって実施した「令和3年度・外構部の木質化支援事業」の一環として、大型木製遊具を設置しました。宮崎県の県産材である成長の早い飫肥杉の大径材を、芯去り材として柱や梁桁、床や階段などにもふんだんに活用しています。
実際に遊具で遊ぶ子供達には会話が増えるなど、明らかな変化が見られると言うことです。この事例は、未来へとつなぐ大径材活用方法のひとつの希望となるのではないでしょうか。
熊本県水俣市に建設されたわかたけ保育園では、樹齢100年の杉や樹齢75年のヒノキの大径材が使用されています。特徴的なのは、この木材を個人の林業家が育て、伐採から製材、乾燥、運搬までをおこなったということです。
林業全体のサプライチェーンの強化が課題とされる中で、個人対一事業体という小さなコミュニティ内での取引にも、大きな可能性があることを示唆する事例です。
参考:NTTファシリティーズ
日本古来の神社や穀物倉庫を造ってきた木造建築技術のひとつに、板倉工法があります。板倉工法の特徴は、通常の木製構造の他に、床や壁、屋根に至るまで杉の厚板を使用することです。
福岡県添田街にある有限責任事業組合ローカルズでは、大径材を製材しやすい剪断機を使用し、杉の大径材を板倉工法に用いる事業を進めています。この事例は大径木の活用例になるとして、林野庁の「林業成長産業化総合対策補助金事業」に採択されました。
参考:朝日新聞デジタル
平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が施行され、大規模な建築物にも利用できる大径材の活用に期待が寄せられています。現在、乾燥技術の進歩により安定した乾燥品質を担保できる体制が整ってきたことや、原木丸太の段階で強度計算ができるようになったことで、活用にはさらなる進捗が見込まれることでしょう。
また、大径材をCLTとして活用することで利用拡大を目指すことも検討されています。森林資源の大径化が進む中で大径材の活用は喫緊の課題であり、迅速な対策が求められているのです。
森未来は「Sustainable Forest 〜森林を持続可能へ〜」 をミションに掲げ、森林ツアーの企画や森林認証コンサル、林業家とのトークイベント など森林・林業にまつわる様々な事業を展開しています。 気になる方は、ぜひお問い合わせください。
木材をビジネスでご活用したい方へ
eTREEでは持続可能な森林と木材業の未来を目指し、木材流通と木材情報の提示を行っております。木材のことならなんでもご相談できますのでお気軽にご相談ください。
無料の会員登録していただけると、森林、製材品、木質バイオマスから補助金・林野庁予算の解説
など、あらゆる「木」にまつわる記事が全て閲覧できます。
おすすめの記事