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2023.2.28
集成材と呼ばれる木質建材のなかで、複数の木材を組み合わせて大型化し、かつ圧縮や張力の強度を高めた製品は特にマスティンバーと呼ばれ、生産過程が機械化され品質が安定していることから大型建築などに活用されています。今回は、NLTと呼ばれるマスティンバーについて紹介します。
NLTは100年以上前に考案された技術で、すでに北米ではNLTが建築基準に位置づけられていることから、特にカナダでは多くの施工実例が存在します。
日本においても、近年法改正などの動きが進み、今後の利活用がさらに見込まれるところです。
目次
ではまず、NLTの製造方法や製品の持つメリットについて紹介しましょう。
NLTとは、「Nail Laminated Timber」の略で、この「Nail」とは「釘」のことを意味します。実際NLTは、製材品(一般的に流通しているツーバイフォー工法用の構造用製材など)を小端立てにして積層し、釘や木ねじで材料をパネル状に留め付けることによって作られるので、NLTの「釘によって重ね合わせられた木材」という意味そのままの構造をしています。
この釘や木ねじも一般に流通しているもので製作が可能となっており、マスティンバーのなかでも大規模な製作設備が不要で簡易な工程によって製造できることは大きな特徴のひとつです。
次に、NLTのメリットについて紹介していきます。
まず、NLTのメリットとして挙げられるのはその強度です。ひとつひとつの木材が釘によって強固に接合されたNLTは、それらの集合体として大きな「面」を形成し、力を全体で分散、受け止めることができることから、水平構面(床・屋根)や耐力壁の構造材として高い強度を発揮します。
実際に海外では、NLTの天井及び床を、NLTを支える柱や梁とともにあらわしとした建築実例や、NLTをエレベーターシャフトとして利用したケースもあるようです。
また、ジョイントパッドで長尺パネルも作成可能なことから、建築用材として様々な応用がきくのも魅力の一つと言えるでしょう。
NLTは、ひとつひとつのコンポーネントは比較的小さな板であることから、ひとつの大きな板や部材では表現できない、曲線的なデザインも実現可能となっています。すなわち、形状に合わせて小さな木材を少しずつずらしながら釘で接合することによって、たとえばアーチ状のデザインであるとか、ねじれや波を打ったようなデザインもNLTによって表現が可能になるのです。
この表現力と意匠性の高さが、NLTを建築に取り入れる可能性を大きく広げてくれています。
これまで紹介してきたように、NLTは製造に際し特別な材料や設備が必要のないマスティンバーです。NLTを構成する木材は一般に流通しているツーバイフォー工法用の木材で問題ありませんし、板と板とを接合する釘や木ねじも一般的に流通するものを用い、手作業でも製作可能です。
この簡易的な工程により、製造時のエネルギー消費を最小限に抑えることができるだけでなく、各地の小規模な製材工場等でもNLTを製造することができるので、特に日本のような大規模集約的でなく各地に製材工場が点在するよな条件下においても取り組みやすく、かつ収益性の高い製品であると言えます。これは、NLTの製造側においても大きなメリットとなると言えるでしょう。
木質材料のメリットとして、木材がもつ調湿作用や高い断熱性、また木の香りや視覚効果などによる居住の快適性などが挙げられますが、NLTは「あらわし」として空間に取り入れることで、これらの木質材料が持つメリットを最大限活かすことができます。
また接着剤を用いていないことから、化学物質の揮発によるシックハウスの心配がないのも大きなメリットのひとつです。
では、このような特徴をもつNLTが現在どのように活用されていて、そして今後どのような展開が期待されているのかを見ていきましょう。
NLTが導入されて100年以上の歴史を誇る北米では、NLTは大小さまざまな空間や建築に活用されています。
たとえば、一階ホールと、上階の廊下と教室をダイナミックにつなげた小学校の吹き抜けの天井にNLTを用いた事例や、NLTによって床、天井があらわしとなっており、木質感がたっぷりと感じられる4階建ての木造オフィスビルの事例、エントランスの大きな庇にNLTを活用したスーパーマーケット、ゆるやかな曲線を描くようにNLTで施工された駅のプラットホームの屋根建築の事例など、実に多様な空間においてNLTが実装されています。
これら多くの実績に裏打ちされた経験やノウハウは、日本におけるNLTの利用拡大の大きな後押しにもなっています。
日本におけるNLTの施工実例はまだまだ少ないですが、2021年11月に完成した5階建て木造マンション、「モクシオン稲城」は大きなマイルストーンとなるでしょう。
こちらは、2019年の建築基準法の改正を受けて、2020年に日本ツーバイフォー建築協会がNLTの準耐火構造大臣認定を取得し、NLTを準耐火建築物への床版・屋根版としてあらわしで使用できる筋道を立てたことで、今回の「木造マンション」建築へ至った経緯があり、今後このモクシオン稲城をモデルケースとして、中大規模建築へのNLT活用が広がっていくことが期待されています。
参考:三井ホーム
このように、日本におけるNLT利活用のための法整備や性能実験等は今まさに進められている最中です。これらによってNLTの性能が客観的に評価され、施工のマニュアル化や規格化が進むことによって、より市場が拡大していくことが今目指されています。
また、NLTの原理を応用した「パネルログ構法」といった新しい技術も開発、研究が重ねられており、各地域の地元産材を活用した新たなニーズの発掘にも期待がかかっています。
NLTは北米において100年以上前に開発された技術ですが、現代においてその価値が急速に見直され、日本での普及に向けて法整備を含めた様々な取り組みがなされている。
今後NLTの利活用を通じて、より身近に木を使い、木を感じることができる空間づくりがますます進むことに期待したいですね。
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