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建物から家具や生活雑貨まで、身の回りには生活を支える木材が多くあります。それらは、どこで作られどのように私たちの手元に届くのでしょう。
近年、カーボンニュートラル実現のために、国産材の活用が推進されています。あらゆる社会活動において持続可能性が必須とされるこれからの時代、国産材の流通を知る意義は大きいといえます。木材流通を解説する2回シリーズの1回目である本記事では、川上から川中までを押さえましょう。
目次
国内の木材流通は、川上・川中・川下の3段階に大別されます。それぞれが指す具体的な段階は、次の通りです。
まず、川上の林業家によって育成・保育・伐採・搬出された原木が、川中の木材加工業者によって製材や集成材などに加工されます。
その後、川下の家具・住宅メーカーなどに建物や家具の材料として利用され、完成した住宅や家具が消費者の手に渡るのが、国内木材流通の大まかな流れです。
木材流通の川上とは、「林業」が苗木から丸太を生産するまでの段階です。木材利用の出発点ともいえる大事なフェーズですが、時間的にも物理的にも消費者との隔たりが大きく、あまり知られていません。
林業は、樹木を育てる「育林」と樹木を収穫する「伐出」に大別されます。実際の作業は、森林所有者から委託を受けた森林組合や林業事業体などが担うことがほとんどです。それぞれの工程を具体的に説明していきます。
樹木を育てる「育林」の工程は、大きく分けて5つあります。
樹木の伐採後、次の代の苗木が成長できるように林地を整えるのが「地拵え」です。整えた山肌に、気候や利用価値を考慮した適切な樹種を「植林」していきます。
苗木の生育を阻害する雑草木を取り除く「下刈り」は一定期間続ける必要があり、育林作業の中でも手間のかかる工程です。
成長に伴い行う「間伐」は、適切な立木密度を維持するための伐採で、森林の健全な成長のために行います。節のない材を得るために枝葉を落とす作業が「枝打ち」で、木材価格の維持・向上に不可欠な工程です。
樹木を収穫する「伐出」の工程は、次の4つに大別されます。
需要や立木の位置などに沿って収穫する木を選ぶ「選木」を行った後、対象の樹木を切り倒すのが「伐採」です。
収穫を目的とする伐採なので、立木密度の調整を目的とする間伐と区別して、「主伐」と呼ぶこともあります。伐採後、枝を取り除いて丸太の状態にし、決められた長さに切り分けていく作業を「造材」といいます。造林後、丸太を林道沿いの一時的な集積場所に運ぶ作業が「集材」です。
一般的に長大な樹木を不安定な足場で扱う伐出は、事故の危険と隣り合わせの重労働で、林業の担い手不足の一員でもあります。
私たちが木材を利用するためには欠かせない林業ですが、さまざまな問題を抱えて衰退しつつあるのが現状です。
しかし、豊富な森林資源の活用が見直されている昨今、改善のためにさまざまな対策も実施されており、わずかながら成果が見られる施策もあります。この章では、国内林業の主な課題と対策について紹介します。
複数の森林所有者の小規模な区画が、互いに入り組んで存在する国内林地の現況は、効率的・生産的な森林経営を阻む大きな原因です。更に近年は、所有者や境界が不明な林地の増加も問題になっています。
その対策として近年「林地台帳制度」と「森林経営管理制度」が創設されました。
林地台帳制度は、市町村が森林の所有者や境界などの情報をデータベース化し、森林組合や林業事業体などに情報提供する制度です。
また、森林経営管理制度は、適切な管理ができていない森林の所有者が、林地の経営管理を市町村に委託できるようにする制度です。
これらの新しい制度によって、国は森林施業の集約化や森林整備の推進を目指しています。
林業従事者数は減少傾向で、他産業と比べて高齢化率(65歳以上の割合)も高い水準にあります。新規就業者の確保や育成のために、2003年度から林野庁が行なっているのが「緑の雇用」事業です。それ以前の林業への新規就業者数は年間2,000人程でしたが、2021年度には3,049人となっています。さらに、全産業で低下傾向の若年者率(35歳未満の割合)が林業では上昇傾向にあるのも、緑の雇用事業の成果の表れと考えていいでしょう。
参考:林野庁|林業労働力の動向
足場の悪い中、長大で重量がある原木を扱う林業において、労働災害の発生率は24.7%と全産業の2.7%に対して極めて高いものです(2021年)。
林野庁は、2021年より10年かけて労働災害発生率を半減させることを目標に掲げ、労働環境の改善を進めており、VR体験シミュレータなど最新装置を用いた研修や労働安全の専門家による安全指導などが実施されています。
将来の林業従事者確保のためにも、安全性の確保は早急に改善が望まれる問題といえるでしょう。
川上の林業が産出した素材(原木)が次に向かうのは、木材加工を担う川中の「林産業」です。山林から運び出された原木は、製材・集成材・合板工場などの木材加工工場に運ばれ、製材品や木質材料に加工されます。
従来は、川上の「林業」と川中の「林産業」の間に原木市場が介在し、丸太は市場で製材業者に落札されるのが一般的な流れでした。
しかし近年は、切り出された原木が、市場を通さず直接製材工場や加工工場に渡ることが多くなってきています。原木市場を介する場合と介さない場合、それぞれの木材の流れや、製材工場などへ直送されるようになった経緯を解説します。
これまで、川上から川中への木材流通の要は「原木市場」でした。原木市場は「素材市場」とも呼ばれます。
山林の現場から搬出された原木は原木市場で競りにかけられ、落札した製材業者によって製材品へと姿を変えます。その後必要に応じて、合板・集成材・プレカット材に加工されるのです。
自然物である原木は品質のばらつきが大きいため、製材業者などのニーズに応じた仕分け・在庫管理の機能を担うのが原木市場です。
また、代金回収・支払いの取りまとめなどの金融機能も果たしています。原木市場は、これら一連の業務に対して出荷者が支払う手数料で成り立っています。
近年、従来の木材流通に変化が起きています。原木を生産する素材生産者が、原木市場を経由せず直接製材工場などに原木を出荷する流れが増加傾向にあるのです。
理由として挙げられるのは、素材生産者から丸太を直接仕入れる大規模な木材加工業者の増加や、生産・製材・加工・販売まで一貫して手がける素材生産業者の出現などです。これらの新しい木材の流れのメリットは、山林から原木市場までの輸送費や、市場に支払う手数料などのコスト削減が見込まれ流ことです。
山林の樹木が木材加工工場に手渡されるまでの流れは、一般消費者が目にする機会はほとんどないでしょう。しかし、最初の苗木が最終的に住居や家具になり私たちが恩恵を受けられるまでには、長い時間と多くの人手が必要なことに間違いはありません。
少し視野を広げて木材の出所に目を向け、林業や森林の現状や課題に関心を持つことは、豊かな森林資源を将来にわたって維持する機運の一助になるでしょう。
弊社では木材情報を集約したプラットフォーム「eTREE」を展開しています。
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