記事公開:2022.11.4

小田原林業オンライン見学ツアー

2022年3月09日

辻村山林、竹広林業(小田原)

こんにちは、森未来です。

先日開催した小田原林業オンライン見学ツアーについて、開催した経緯や現場の雰囲気、感想などについてお話しします。

前身となった多摩の林業ツアーが好評ということもあり、今回は、実際の林業現場をオンライン上でどのくらい伝えることができるのかをはかる目的で小田原林業オンライン見学ツアーを実施しました。

多摩ツアー

初の試みということもあり試験的な運用も兼ねた少人数でのクローズド開催とし、イベント構成は午前と午後の2部構成としました。午前中は小田原にある辻村山林の生産現場を見学。午後は老舗材木店、竹広林業にて辻村山林の木材を使った事例や銘木類についての説明を雑談も交えながら対話形式で行いました。

また、チャットを通じて参加者の質問もオンタイムで拾い、現場担当者へ投げかける形で行ったのでリアルな回答を聞くことができました。

300年生の高齢木が点在する辻村山林の見学

辻村家8代目当主、辻村百樹さん

ツアーは小田原に70haの山林を所有する辻村家8代目当主、辻村百樹さんによる辻村山林の歴史からスタートしました。辻村家は江戸時代に商人をしており、当時、東海道五十三次の主要な地域でありながらも災害が多かった小田原藩に金融的支援を行っていました。しかし、支援を受けていた小田原藩は借りた金銭の返済が見込めなかったため、返済の代わりに山の管理権を辻村家に与えました。その後、小田原藩にあった山の所有権が徐々に辻村家に移ったことにより辻村山林が誕生することになります。つまり、辻村山林は小田原藩の藩有林がルーツになっているわけです。

辻村山林には樹齢200年、300年生のスギが点在しています。小田原は首都圏に近く、第二次世界大戦後は復興のために山から多くの木が伐採されることとなりましたが、辻村家は藩有林から続く歴史ある森林を守り抜き、今もなお、希少価値の高い生育過程のスギ高齢木を見ることができるのです。

辻村さんが樹齢300年を越えるスギの説明している様子

こういった高齢木は、地元の小田原城や報徳二宮神社の鳥居などの寺社仏閣にも使用され、地域文化に根ざした活用もされています。また辻村さんは、寺社仏閣に限らず住宅などにおいても、施主側から素材生産を行う林業家までお互いの顔が見える関係性を築いていくことも重要としているそうです。

参加者からは、間伐や主伐、皆伐といった伐採手法の違いについての疑問や木材を扱う設計士にとって特に環境視点で意識する点はあるか、といった基礎的なことから実地に活かすことができそうな質問までが活発に飛び交いました。

最後、辻村山林の育林・林業としての考え方や、日本全体の林業についての意見や感想を伺ったところ、林業という長いスパンで行う産業においては、次世代に森林を継承していくことが一般的であり、辻村山林では綺麗な森林(管理が行き届いた森林)を後継さていくことを意識しているとのことでした。そのため日本全体の林業に関しても、単に見ていて美しい・気持ちの良い森林を皆が意識していくことで、整備が進むのではないかとの見解を述べました。

整備が行き届いた辻村山林

小田原で120年の歴史を誇る老舗木材店、竹広林業

続いて午後の部は、小田原で明治25年から続く老舗材木店、竹広林業で辻村山林の木材を使った事例や銘木類について、実物を映しながら説明する場となりました。お話を伺うのは竹広林業の代表、高木大輔さんです。竹広林業は、今では建設業なども行っていますが、始まりは屋号にもあるように林業で、竹を編んで漁具を提供していました。その後、林産物として竹だけでなく木材も併せて扱うようになったことで、林業や木材業へと発展した経緯を持ちます。

竹広林業の倉庫で銘木などの説明している様子

竹広林業の倉庫には、全国の銘木が展示されており一般商流では入手することが難しい大判板などが綺麗に展示されているだけでなく、在庫管理においても各製品のトレーサビリティや保管期間などが厳格に管理されていました。

小田原産材を積極的に使うようになったのは十数年前からで、地元の材木店で結成される協同組合の青年部が発端でした。これまで個々の材木店で小田原産材を使っていた分散型の形態から、青年部を中心に組織的に活用していこうという取り組みから生まれたそうで、小田原の森林を次世代へと繋げていこうという目的意識が形になったそうです。

説明を受けている参加者からは、木材の夏目(早材)、冬目(晩材)といった材質に関することや、小田原の急峻なイメージから曲がった材は無いのかといった実際に活用する目線での質問が多く見受けられました。

最後に、高木さんから昨今のウッドショックやロシア材が入手できないなどの様々な世界情勢を鑑みて、今後の木材業の展望について伺いました。渦中の身であるがゆえ、すべてを単独で行うのではなく地域や世代を超えた連携によって、森林林業を紡いでいくことが重要であるとしました。一方で、後継者の存在も危惧しており、今後、森林林業が活性化していくには先人の想いを受け取る人の存在がより重要であると締めくくりました。

明治25年から続く老舗材木店、竹広林業

辻村山林から伐採した300年生のスギは非常に目が詰まっており、また心去りで製材できる寸法とは思えないほど立派な梁もありました。現場は整然としており、製品一つひとつが大切に扱われている感覚が身に染みて伝わってきました。

午後の部では、午前の反省を活かし2カメのカメラワークの大幅な改善が図れました。また、参加者からの質疑応答や運営側と現場の連携もスムーズに行えたため、試験的なイベントではありましたが、本格的な始動へと繋がる良いスタートが切れたと思います。

小田原林業オンライン見学ツアー全体を通しての所感

今回、初の試みとなったオンライン見学ツアー開催にあたり、終始、運営側と現場の連携に気を配っていました。これは参加者も一緒になって楽しめるよう、要望や質問等が現場に滞りなく伝わる必要があったからです。実際、午前の部は連携に不備があり、2カメのカメラワークがかなりブレてしまうといったこともありました。また開始前の画面で、見学する場所のザックリとした解説があった方が、参加者側も歴史や背景などが入って来やすいといった意見もあり、前段階での準備も反省点として挙げられました。

しかし、全体を通じ参加者から高評価をいただいたので、ぜひ定期的に開催できればと考えております。川上から川下の相互理解の場が増えることで、森未来が掲げる「森林を持続可能にする」という理念の達成に近づくことができるので、前向きに捉えていきたいと思います。

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