eTREE TALK
この記事をシェアする
記事公開:2022.11.4
2020年5月14日
オンライン開催
5/14(木)、eTREE TALK vol.2「木を空間で使うクリエイターの裏話」をオンラインにて開催いたしました。今回はそのなかでも議論が白熱した後半部分から抜粋して、トークセッションの様子を全三回に分けてお送りいたします。
浅野: 最後にご質問です。地域産材指定について、お二人のお考えはいかがでしょうか。
金子: ありがたいと思いますよ。ただJAS工場としては、JASのスタンスでは地域材か否かは無視してしまうラベリングになっています。ですから、地域材とJAS材を同時に考えるのは、全木建としてもできるだけしたくないです。JASはあくまでもJASの規格であって、産地は関係ないですし、日本の木ですらなくていいですからね。
林野庁の皆さんであれば、日本全体を考えますから、地域材指定はやめてくださいと言うかもしれないですね。しかし、埼玉県の県庁や秩父市の市役所は、どこの県もそうだと思いますが、どうやってその県の木を売るかを考えます。ただ地域材をすべて使って地域材だけで家を建てると高くなってしまいます。何年か前に埼玉県産材の使用に補助金を出す制度が作られましたが、6割が基準でした。長い木材が得意なエリアなど個性がありますから、四割は他のエリアの木材も使ってもらう。せめて6割くらいを埼玉県で使ってもらえたらありがたい。それで6割なんだと思います。
古川: 地域材の定義をどう捉えたご質問でしょうか。例えば埼玉県産材を使うと補助金が出る、というような意味での地域材なのか。
浅野: 僕はそのニュアンスで捉えていました。
古川: 地域材への補助金の本当の意図は、そこでお金を使うことによって山にお金が還元される地域循環型を作ることです。しかし、実際にそんな風に運用されているのか疑問がありますよね。地域産業として、林業はすごく重要です。地域できちんと食い扶持になるような産業の在り方として、ちゃんと考えないといけない時なのに、そこに対して地域材の実態がちょっとずれていってしまうと、つまらないなと思ったりします。
地域にとって、すごく重要なものなんだよね。林業って。その地域の生産物と言えば木材しかないところもたくさんある。逆に、日本で自給できる建築材料って木材くらいなんです。しかも、自給できるだけでなく、再生できる。植えて育てれば次の世代が建築として使える。投資の意味がすごく強いです。投資として林業が成り立っていないと、日本の未来はもうないんじゃないかとまで思います。日本が持っているリソースのなかで一番ポテンシャルが高いのが木材で、それを生かせていないのが今の残念な日本じゃないでしょうか。
金子: 僕は、埼玉県産材に最終的にこうなってほしい。埼玉県産材と他県産材が同じ値段なら、埼玉県産材の方が、品質がいい。同じ品質であれば、埼玉県産材の方が安い。こうなるためには、補助金によって保護されている今のうちに、埼玉県の僕らがそれに近づく努力をしないといけない。いつまでたっても補助金だけに頼っているのは、エンドユーザーが許さないんじゃないかと思います。だって、同じ値段で他県産材のほうが良ければ他県のを買うでしょ。僕が都市部にいたら、そうしますよ。補助金でもなければ。いつまでも補助金頼みでなく最終的にそのレベルまで持ち上げる、その時の付加価値としてJASは選択肢の一つだと僕は思います。
古川: 金子さんが言われているように、補助金があるから使うのでは品質の向上にならない。本当にやらなければいけないのは、品質の向上。安定供給や強度の表示、エビデンスなど、品質の向上を地域は絶対にやらなくちゃいけないと思います。今は地域材を使っただけで補助金が入りますが、それで途端にモチベーションやベクトルがなくなってしまうのだとしたら、「あれ? 何やってんだろう?」ですよね。補助金が終わったら残骸だけ残っている、なんてことにならないように。
金子: 余談になりますが、先ほどお話しした伊佐ホームズさんの取り組みもそういうことですよね。山側にお金を戻すためには、山側ももう少し努力してくださいよと。つまり、ある程度の精度で玉切りをしたり品質を選別したりする能力やノウハウを、山主が持っているということ。今までは伐倒して4メートルにしとけばいい、曲がっているから3メートルにすればいいっていうのを市場に任せてきた。よそに利益を持っていかれていたと言うのはおかしいですが、これまで費用を払っていたものの一部を山に戻す、その努力を山でもしなくちゃいけない。
製材工場でも、埼玉県材は同じ品質だったら安いか同じ値段だったら品質がいいかというところまでもっていく必要があると思います。まあ、そんな偉そうなこと言ってもやることあんまりやってないんだけどね、棺とかがんばってはいますが。
浅野: ありがとうございました。まだまだ盛り上がりそうですが、予定の時間をオーバーしてしまっているので、締めに入りたいと思います。
浅野: お話を伺うと、品質の向上、品質の担保、品質のエビデンス、これらが森林とか林業の価値を上げるとお二人は実感しているのですね。僕たちや設計者、製材所でも共通認識にしなければいけないと思いました。
古川: やっぱり、森未来さんの役割はそこにあるんじゃないかな。先ほどコメントも来ていましたよね。
コメント:製材所のグレーディングデータを山単位で共有できるような機関があれば、(ドイツのフォレスターみたいに)山の価値も変わるのでは。このデータを集約する仕組みを森未来がつくればいいのに(笑)
浅野: 実はそうなのですが、今日は僕の話じゃないのでね。また勉強させてください。是非そうなれたらいいなと思っています。
古川: 金子さんとこうして白熱議論したのは初めてじゃないですか?
金子: そうですね。
古川: お酒飲んでる席ではちょこちょこあるけど。
金子: オンラインだから、顔を見ながら話せるのはいいけど、やっぱりちょっと話しづらいけどね。
古川: オーディエンスの顔が見られないからね。しょうがない。
金子: どんな方が聞かれているかは分かりませんが。この20年30年の間、山側が考えてそのノウハウでやったけれど駄目だった。今は東京など都会の人たちと組んで国産材を供給させてもらっている部分もありますが、いい意味で山には素人である優秀な人たちが変えていく部分が大きいです。なんで材木屋ってこうなのか、日本の山ってこうなのかを、製材工場でもプレカット工場でも山側でも設計に携わる方にぶつけてもらってですね、それがカンフル剤というか一つの起爆剤になると思いますよ。
浅野: 今日も学生や建築家木材ユーザーの方も多いので。ぜひそういった方の意見で良くしていけたらいいですね。
金子: 学生さんにとっては、木なんて新素材じゃないですかね。たまに見学に来られますが、柱が欲しいとか梁下駄が欲しいなんて言う学生さんはいませんよ。おがくずもらっていっていいですかとか、鉋屑ありませんかとかね、「何するの?」と聞いたらランプのシェードを作りたいみたいなね。非常に期待しております。
浅野: まだまだお聞きしたいところですが、お時間が来ております。お二人とも、木材と森林の未来は明るい、ということでよろしいでしょうか?
古川: はい。
金子: 明るくしてください。
浅野: 本日はありがとうございました。
金子・古川: ありがとうございました。
今回イベント中にトラブルがあり、お申し込みいただいたにもかかわらず、ご参加いただけなかった方がいらっしゃいました。深くお詫び申し上げますとともに、今後このようなことが起こらないよう努めてまいります。これからもeTREE TALKは開催してまいりますので、次回以降ぜひご参加いただけますと幸いです。お申し込みいただいた皆様、本当にありがとうございました。
トークセッションは、ゲストのお二人の木材に対する深い愛が伝わってくる、白熱の議論となりました。木材業界の未来をより良いものにするべく、わたしたち森未来もより一層精進してまいります。
合わせて読みたいレポート