[eTREE TALK vol.5] 日本の木を活かすデザインに挑む

2021年4月22日

オンライン開催

eTREE TALK vol.5 のゲストは、株式会社TATTA代表取締役 一級建築士富永大毅様。
富永さんは、林業の本質的な課題に対し、正面から建築で向き合っています。
一般的に、中規模木造建築で流通材の規格を越えてしまった場合、集成材を使うことが多いかと思います。
しかし、富永さんは日本の森に豊富に貯蔵されている資源を有効活用するため、一般流通材を使った設計を考えられます。
「資源から設計を考える」というアプローチです。
また、CO2 削減の為の地産地消、サプライチェーンを簡素化し、生産者へ利益を還元するなど、設計だけに留まらない建築が特徴的です。
無垢材は、強度は安定せず、割れるし、狂います。そんな無垢材をなぜ使うのか。
実際の事例とともに、作ってみて苦労したこと、解決策、得られたメリット等を伺いました。

新しい発想でコストを抑え、解体後まで見通す内装

富永大毅さん(以下、富永): はい。別の事務所にいた時代も、木を使うこと自体はありましたが、そこまで木材使用を意識していたわけではありませんでした。木調のデザインでも木を使わず、木目が印刷されたシートを使ったりすることにも、あまり抵抗がなかったです。

輸送用パレットを活用した木質内装 ※TATTA様ホームページより引用

浅野: こちらの木のパレットを使った建築は、まだ富永さんが木の建築に目覚める前のお仕事ですよね。木材流通からの観点からも面白いお話ですので、お伺いしていきます。

富永: こちらは約50平米のオフィス内装で、木を使いたいとご要望をいただきました。しかし、予算が300万円ほどしかなかったんです。坪単価にすると20万円ほどです。正直無理だと思いました。
断ろうかとも考えたのですが、ダメ元で、運送用のパレットを使ったデザインをお持ちしたところ、ぜひやりましょうと言っていただきました。
パレットなら一枚約1000円で買えます。特注で作ってもらったり、既製品を買ったりして揃えました。120枚ほど、4tトラックに積まれて届きました。
さすがにそのままでは手触りがざらざらだったので、サンダーをかけました。サンダーがけはワークショップのような企画にして学生を集め、手伝ってもらいました。これを大工さんに貼り上げてもらいました。

浅野: パレットはパレット屋さんから買ったのでしょうか。パレット自体は外材ですか?

富永: はい、大阪のパレットメーカーで作ってもらいました。パレットは基本的に米マツで作られています。天井のパレットは既製品を使いましたが、国産のスギです。

このあたりは文京区の水道というところなのですが、周りに出版や印刷の会社が多く、町中をパレットでフォークリストが走っているような光景が日常的にあります。それを発想のきっかけにしました。
作ってみたら意外と海外のWEBメディアでバズりまして、それを見た国内企業から、使わなくなったらパレットとして引き取りますとお声もいただきました。
実は、それまで建築を中心にしていたので、インテリアや内装の設計はあまりやったことがなかったんです。5年くらいしか使わない予定とのことで、つまり、5年後には解体して原状復帰しなくてはならない。解体の際に負の遺産を押し付けることになるのが心苦しかったので、またパレットとして使えるのであれば処理に困らず、無駄もなくせるのでとても良いと思いました。

浅野: 内装は短期間で解体する可能性があるのに対し、建築は残していくものという印象があります。考え方がだいぶ違ってきそうですね。
竣工が2015年なので、もう6年経っているんですね。

富永: はい。先日見に行ったのですが、まだまだ使われています。木の素材なので、とても丁寧に、まめに掃除していただいているようです。竣工当時と変わらない様子でした。

浅野: 木の良さですよね。

なぜ木を使うのか、を考えていなかった

浅野: そこから図らずも木の建築へとシフトしていくことになりましたが、きっかけはありましたか?

富永: この後、こちらのコワーキングスペースを設計しました。私達の事務所がビルの二階にあるのですが、一階と三階を改修したものです。

デッキテラスのコワーキングスペース

富永: その三階に、中島健造さんが主宰している自伐型林業推進協会の委員の方がいました。中島さんに「木に興味ある若い建築家が周りにいないか」と聞かれまして、若い建築家を何人か連れて中島さんのレクチャーを聞く会を開きました。そこでかなり衝撃を受けました。今まで自分ではわりと木を使っているつもりでしたが、何のために木を使うのか分かっていなかった。目的と手段が入れ替わってしまい、CLTでもとにかく木を使えばいいんだと思っていました。
中島さんのお話を聞き、CLTや集成材の使用は山をどんどん皆伐することにつながってしまう面もあるのだと知りました。良い材も悪い材も安く買いたたかれてしまい、山にお金が戻っていかないので、持続可能な管理につながらない。それを聞いて、自分は間違っていたと思いました。
これをきっかけに、なぜ木を使った方がいいのか、何が問題なのかを考えました。林業関係の本を20冊ほど読みました。

▶︎自伐型林業推進協会について、詳しくはこちら
>>>https://zibatsu.jp/

浅野: CLTが出始めたときは、政府も推進していました。B材C材のラミナでCLTを作って日本の林業が宝の山になる、と。
これをきっかけに素材に関心を持つようになられたということですね。

富永: はい。実際に、建築家の仲間と吉野の森に視察に行きました。そこでもかなりの衝撃を受けました。江戸時代に木を植えてくれた祖先のおかげで今生きている。林業家にお話を伺うと、タイムスパンが長いんです。凄いスケールだなと。そんなに昔から続いているのに、なぜ自分たちはその先を続けられないのだろうかと考えていました。
本を読んだりしていく中で、オーストラリアやスウェーデンなどの林業先進国では、木が毎年どれくらい生長するかに対して伐採量をきちんとコントロールしていると知りました。70-80%で管理するのが理想だそうです。その実現のために、自分のマーケットの中で人の価値観を変える建築ができないかと考えました。

光の落ち方が神々しい樹齢180年の森とその奥に密集する樹齢40年の森 ※株式会社TATTAホームページより引用
光の落ち方が神々しい樹齢180年の森とその奥に密集する樹齢40年の森 ※株式会社TATTAホームページより引用

富永: この写真もとても良いですよね。奥に見えている細い木が樹齢30-40年ほどで、それが密植で密に林立しています。手前に樹齢200年ほどの巨木がまばらに生えています。
教会建築のように、上から光が差し込み、大きな柱がどーんと垂直に立っている。それを一目見た瞬間に、奥の木を間伐してお金に変えながら200年経った状態を作り上げるという、自然と人工の間の美しい状態にとても感動しました。

浅野: 他の一次産業と比べて、例えば料理人や寿司職人は漁を見に行ったりしますが、建築家や大工で山まで入る人はなかなかいないよねと言われたりします。

富永: そうですね。こんなに近い産業のことを全然知らなかったなと。近代建築の教育を受けていますから、木造建築や山に対する理解が弱いと思います。

璧でないことを楽しんで。木を使うことを当たり前

垂木の住宅※株式会社TATTAホームページより引用

浅野: 山について考えたことが、こちらの垂木を活かした設計につながっていったということですね。

富永: はい。こちらはマンションの内装です。クライアントから木を使ったインテリアをやりたいとご要望を受け、埼玉の地域産材である西川材を使いました。ちょうど新しい木の使い方を考えたいと思っていたので、マンション改修で木をある程度の量使うことができたら面白そうだなと考えました。4立米ほど使っています。400本ほどでした。
垂木は60mm×45mmの材を重ねています。年輪の円の法線方向にあたる60mmの面は節が出やすいのですが、見えるのは45mmの方なので、材を無駄なく使えました。

現場で短く伐っているわけではなくて、沖倉製材さんで、どのサイズが何本いるかエクセルで表を作って全部切ってもらいました。全部で1400本ほどでしたが、1本も欠けずにぴったり届きました。普通の木造住宅の1/3か1/4ほどの木材を使っています。

プレカットをお願いしたのは沖倉製材さんです。木材の調達について考えていた時、ちょうど自転車通勤の途中に沖倉製材があると知り、伺いました。どんな風に材がストックされているかなど案内していただきました。

浅野 :  沖倉さんもちょうどいらっしゃいますね。よろしければマイクをオンにしてお話しください。

沖倉製材の沖倉さん: 垂木の家は初めての取り組みでした。見えるのが一面だけなので、一面だけ節が出なければ使うことができ無駄がないです。

垂木の住宅※株式会社TATTAホームページより引用

沖倉 :  プレカットの経験はあったのですが、今まで一番量が多かったです。建築として輝かせてくださったので、我々としてもやりがいのある仕事でした。
富永さんがしっかりしたリストを作成してくださったので、非常に助かりました。こちらでも、小口に番号を書いて現場ですぐに分かるようにしたり工夫しました。

浅野: 製材所に細かい注文をすると、面倒がられることも多そうです。

沖倉: 来るもの拒まずですから。

富永: 最初にあたった製材所が沖倉さんで良かったなと思います。はじめから、難しいからできない、などと言われたら心が折れていたでしょう。沖倉さんの包容力に助けていただきました。

浅野 :  スギを使うか、ヒノキを使うかはどう決めたのでしょうか。

富永 :  予算の問題ももちろんありますが、スギの赤い部分と白い部分を両方使えたらきれいだなと考えました。
また、この国には圧倒的にスギの方が多く植わっています。だからスギの使い方を考えていかなければいけないはずなんです。ヒノキにはすでに価値がついているので、どうすればスギの価値をあげられるかを考えたいなと。
このようなデザインを通じて、地元の木を使うことが当たり前になればいいなと思っています。

浅野 :  斬新なデザインですが、施主様の反応はいかがでしたか。

富永: 実は、壁は積んで上からビスで止めているだけなんです。隙間ができてしまうことを気にされていました。でも、三か月後に点検で伺ったときには、今日は湿気が多いから扉のしまりが良くないな、とおっしゃっていて。

浅野: 完璧でないことを楽しんでいますね。

富永:人間の価値観が変わっていくので面白いです。
木裏と木表を交互に積んで狂いが少なくなるようにしたり、かなり工夫はしました。例えば、天井とくっつけずに隙間を開け、万が一縮んでも天井を引っ張らないようにしました。

デザインに合った素材ではなく、今ある素材に合わせたデザインを

四寸角の写真スタジオ※株式会社TATTAホームページより引用
四寸角の写真スタジオ ※株式会社TATTAホームページより引用

富永: こちらの物件は、はじめは住宅の依頼かと思ってお話を伺ったのですが実はそうではなく、住宅のシーンを撮影するための写真スタジオでした。倉庫の中に木造住宅を作りました。
撮影スタッフのスペースも確保しなくてはならず、かなり広い空間を作ることになりました。壁から壁まで梁を渡すのに、5mくらいの長さが必要でした。5mの長さがある無垢材が短期間で充分な量確保できるとは思えなかったので、3m材と4m材を積み上げて梁にしました。
3m材や4m材でもこんなにたくさんすぐには出ないだろうと思って沖倉さんにご連絡したところ、大丈夫ですよと。結果的に、すぐには出てきませんでしたが、工期は遅れることなく進められました。コストも70万とかなり抑えられました。

四寸角の写真スタジオ※株式会社TATTAホームページより引用
四寸角の写真スタジオ ※株式会社TATTAホームページより引用

浅野: 本来なら鉄骨や集成材になるところを、3mや4mの無垢材を使おうと考えられたのですね。

沖倉: やはり、3mや4mの材を使ったのでだいぶコストが抑えられています。木材は、1m長いだけで予想以上に値段が上がってしまいます。4mと5mや6mでは、材を挽くための道具も違うものを使わなくてはいけません。長ければ長くなるほど、まっすぐな材でなければならないので、立方単価も上がってしまいます。

富永: そうなんですよね。
設計には、過剰にあるものがもたれかかって強度を発揮するという、昔の木造の在り方を取り入れました。写真スタジオなので白く明るく見せるために白い塗料を使っているのでスギらしさは少し抜けているかもしれませんが、施主様には喜んでいただきました。

デザインに合った素材を探すのではなく、山にどういう素材があり製材所にどういう材があるからそれを使ったデザインを考えようと発想するようになりました。
一番のポイントは製材所の事情を良く知ることかなと思います。これなら出せる、乾燥に関しては燻製みたいになるので高温乾燥は避け、なるべくスギの香りが残る低温乾燥を選ぶ。しかし、自然乾燥にも欠点はあるので、中低温の乾燥を使ってみたり。
そういう乾燥機がある製材所を探すところから始めていますね。

浅野: 木の使い方として、新たな可能性が見えてきますね。
本日はありがとうございました。

富永・沖倉: ありがとうございました。


■ ゲスト
・株式会社TATTA 代表取締役 一級建築士 富永大毅
> https://www.ht-at.com/

1978 千葉県生まれ Born in Chiba
2001 東京都立大学工学部建築学科卒業 Bachelor of TMU
2003 ミュンヘン工科大留学 Technische Universität München
2005 東京工業大学理工学研究科建築学専攻修了 Master of TIT
2005 千葉学建築計画事務所 Manabu Chiba Architects
2008 隈研吾建築都市設計事務所 Kengo Kuma And Associates
2012 富永大毅建築都市計画事務所 Hiroki Tominaga – Atelier
2019 株式会社TATTA 代表取締役 TATTA CO.,Ltd. CEO
2017- 東京都立大学  非常勤講師
2018- 日本大学 非常勤講師

進行:株式会社森未来 代表取締役 / 浅野純平
※敬称略

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