eTREE TALK
この記事をシェアする
記事公開:2021.11.4
2021年6月29日
オンライン開催
浅野: 2010年代後半はSDGsが言われるようになってきた時期です。社会が変わってきたことを、この5年で感じるようになりました。変わり始めてきたのが2010年代後半ですね。
成富: 意識は変わってきたものの、実際形に出来ているものはそんなになかったなという印象です。それよりも、働き方改革の影響でオフィスの仕事が多かったです。
浅野: そして2020年に入り、コロナ社会になって今に至ると。
このような流れの中で、船場さんの方ではSenba Ethical Design Thinking の取り組みをなさってますね。これは社会的な要求があったからなのでしょうか。あるいは内装業界の内から発してきたものなのでしょうか。
成富: これは完全に内側からです。
この話をする前に、エシカルとは何か、改めて共有しておきたいと思います。
エシカルという言葉は最近よく聞きますよね。東京都でも「エシカル消費を進めましょう」と推進しています。
浅野: バズワードですね。
成富: そうですね。ファッションのようでもある。SDGsと並べて使われることも多いですね。
エシカルには「倫理的な」という意味があります。僕らの理解で言うと、そこには、人と地域と環境に配慮するという三本柱があります。諸説ありますが。それを踏まえて分かりやすく言うと、エシカルとは、違和感を無視しないこと、自分が是としているものと反しないことだと思っています。
僕らにとっての違和感とは何かと言いますと、今までもお話してきましたが、現代ではお店の寿命、空間の寿命がかなり早まっていると感じています。
時代観が非常に速く回転している。そして時代が変わるとすぐになくなってしまう。そんな中で違和感を強く感じるようになっていました。
自社調べで船場の産業廃棄物を調査しましたが、かなり廃棄物が出てしまっていました。
このような流れがあり、去年の8月に、トップからエシカルを大事にしていくと話がありました。実はまだ1年経ってないんです。
浅野: 大企業としては非常に早いペースですね。
成富: 「まずはやってみい」の精神です。
浅野: 「違和感を無視しない」という言葉、とてもいいなと思いました。これは船場さん発の言葉ですか?
成富: 僕はエシカルデザイン本部に所属しているのですが、エシカルデザインの施策を考えたり、このようなワーディングをブレストしたりしていて、その中で出てきた言葉だったかなと思います。
浅野: 最初にこのお話を成富さんや御社のスタッフとしたとき、驚いたことを覚えています。「内装業界自体がスクラップ&ビルドでタームが短く、決して環境にいいことをしてきたとは言えない」と自己否定するところからプレゼン資料に書いてありました。これはすごいことを言っているなと思いました。
一方で、実は僕ら素材屋さんからいうと、スクラップ&ビルドしてくれた方がいいんですよね。
成富: 分かります。経済を循環したい側面もありますよね。環境の循環ではなく。
浅野: 経済と環境、両輪を回していく内装や建築が今後は求められていくんだろうなと思います。
浅野: 最近、船場さんのオフィス内装をデザインされたんですよね。
成富: はい。船場のオフィスは、元々7月くらいに定借のリミットが来るのでどうするのかという話を経営層の中でしていました。テレワークで出社人数もかなり減らせたので、移転して面積も4/5ほどに縮小しました。
この図は、船場のエシカルのサービスメニューを描いたもので、circular renovation と言います。皆さん、是非覚えて帰ってください。
最初からあったものではなく、オフィスのことを考える過程で出来上がっていったものです。
コンストラクションの部分では、リターン(使い続けましょう)、リユース(使えないなら市場に戻しましょう)、リサイクルの3つをしていく。クリエイション、つまり作る部分で言うとリセレクト(素材の選び方を見直す)、リデザイン(ほかにデザインによってできることはないか考える)、リノベイト。そういうことを考えることで総合的に建物の寿命が延びていく。
この考え方を掲げて、オフィスを設計しました。
これはスタジアム形式のリフレッシュスペースです。収納も兼ねています。
いらなくなったスチール什器を積み上げて作っています。いらなくなったらばらしてレイアウト変更が可能です。ステップもいらなくなったスチールの棚板を使っています。
一見するとへんてこと言いますか、僕らが今までアウトプットしてこなかったデザインです。
浅野: 象徴的な、見本となるようなオフィスを作ろうということですよね。
成富: そうですね。手探りながらスピード感を出していきたかったので、何ができるのか自分たちが実験台となってやってみようと。
浅野: 私も実際にオフィス見学させていただいたのですが、素敵な考え方だなと思いました。
今、エシカルを謳っている素材も出てきていますよね。そんな中でエシカルマテリアルを推進していくにあたって、「今の内装を全部ぶっ壊して捨ててエシカルな素材でおしゃれな内装を作り直そうぜ」とはならない。
成富: 一番環境負荷がないのは使い続けることだと考えています。
使い続けたくても、使えなくなってしまった理由がいろいろある。機能がそぐわなくなったとか、壊れたとか。それでも使うための手法としてリデザイン、アップサイクルの手法を大事にしたいなと思っています。
写真奥のカラーコーンとかは分かりやすいですが、現場で大量に余っていたので使えないかなと。
浅野: 一番前にあるのはスチールラックの棚板でしょうか。
成富: はい。スチールの棚板、ペーパーレスになったので大量に余ってしまっていました。
このデザインを広めたいのではなく、この考え方が広まるといいなと思っています。
ちょっとギャグのようでもあり、来た人がSNSに挙げてくれることもあります。
浅野: 新しいエシカルの考え方ですね。
このオフィスの設計では、おっしゃるように、アップサイクルすることで環境負荷が少なくなっていますよね。例えばこのスチールをアップサイクルではなくリサイクルするのであれば、溶かす工程などで大量の二酸化炭素が発生すると思います。
アップサイクルをするにあたって課題を感じた点や、デザインの工夫があれば教えていただきたいです。
成富: 答えになるかは分からないですが、物を作ることと捨てることを一緒に考えることなのかなと。僕らが目指したのは使い続けること。そのために、玉突き工事と言って、例えば撤去したスチール什器を一回外に出すことをせずにその場で新しい構造に組み替えるなど、順繰り順繰りに工事していきました。なかなか大変でしたが、こうすることで、コストも抑えながら輸送時の二酸化炭素排出量も抑えることができました。
暗中模索ながらこれは絶対いいだろうという事をした。それでも捨てないといけない物は有価引き取りに出して市場に戻す。それにも出せないものは株式会社仲代さんと協業してリサイクルにしました。99%の脅威のリサイクル率だったと聞いています。単純に分解してリサイクルしていますが一般的には55%ほどなのに99%まで行けたというのは自信につながりました。
あとは、リデザインの中にはリメイクも含まれていますが、捨てたくないけど機能として寿命が終わっちゃってるものがありました。例えば、不要になった個人のデスクワゴンが超大量に出てきたので、これもギャグなんですけど、並べてクッションを置いて待合用のソファーに使ったりだとか。ちょうど、先ほどの写真のカラーコーンの横のソファーです。
機能として終わった物を別の機能に使って延命させていくことは凄く考えました。
浅野: 今までコンストラクションとクリエーションは一本線で、作る側は捨てること考えないし捨てる側はそれが何かに活かせるか考えたことがなかった。それをくるっと無限の輪にしていくことが大事なんですね。
合わせて読みたいレポート