サステナブル
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CLTの最新情報をお届けするシリーズ「建築家のためのCLT入門」。
第2回となる今回は「木材建築のメリットと将来」をテーマに、CLTをはじめとした木材を使用する建築物の意義と、日本における木材活用の今後について、見ていきます。
第1回はこちら【徹底解説】CLTの特徴・活用事例
目次
なぜ今、CLTを含む木材を使用した建築物が注目を集めているのでしょうか。
それは、木材建築が近年深刻化している地球気候変動問題への有効な解決策だからです。
森林は大気中の二酸化炭素を吸収し、炭素として内部に貯蔵するとともに、光合成を経て酸素を大気中に放出します。立木に貯蔵された炭素は、伐採され各種木材製品となっても、引き続き内部に貯蔵され続けます。そして伐採後も植林をすれば、若々しい新たな二酸化炭素吸収源を確保することがでできます。
積極的に建築物に木材を使用することで、建築物そのものが二酸化炭素貯蔵庫となります。建築物の規模が大きければ大きいほど、二酸化炭素貯蔵庫として果たす役割も大きくなっていくでしょう。
このように、木材を使用した建築は、建築物そのものが吸収した二酸化炭素を放出せずに固定する「貯蔵庫」となるという点で、環境問題の解決に大きく寄与しているのです。
それゆえ、森林と同じように二酸化炭素の貯蔵庫の役割を果たす木造建築群は「都市の森林」「第2の森林」とも呼ばれます。
科学誌「ネイチャー・サスティナビリティ」の20年12月号に、「地球の炭素貯蔵庫としての都市の木造ビル群」という論文が掲載されました。
この論文にはまず、
今後、数十年にわたり世界人口の予想される成長と都市化は、新しい住宅、商業ビルおよび付随するインフラストラクチャの建設に対する膨大な需要を生み出すだろう。この建設の波に関連するセメント、鉄鋼、その他の建築材料の生産は、温室効果ガスの主要な排出源となるだろう。世界の気候システムに対するこの潜在的な脅威を、気候変動を緩和するための強力な手段に変えることは可能だろうか。この挑発的な質問に答えるために、私たちは、無機質ベースの建設資材の炭素排出的な生産を回避し、炭素の長期貯蔵を提供する加工木材で設計された都市の建物の可能性を探る。
引用元:ネイチャーサステナビリティ 20年12月号
とあります。
さらに「今後、世界の都市化によって建築過程で排出する二酸化炭素は4Gt(ギガトン)から20Gtと推定され、すべての二酸化炭素排出量の20%を占めるが、建築物の90%を木造・木質化することで膨大な炭素プールが都市に形成され、二酸化炭素の排出量は半減するだろう」と述べられています。
既に欧米では木造高層建築物が次々と建設されており、中高層木造建築物が建設しやすいよう、防耐火等の制度見直しも進められているそうです。
ここまで、木材建築が地球環境に与える意義について見てきましたが、日本における建築の木材化は今後どのように進んでいくのでしょうか。
日本のこれからの木材建築について語る上で、キーワードとなるのは「非住宅木造建築」です。ではなぜ「非住宅木造建築」が重要なのか。その事情について詳しく見ていきましょう。
現在、日本は世界有数の森林面積率を有し、森林蓄積数量は60億㎥。さらに、戦後植林された人工林が本格的な主伐期を迎えている影響もあり、毎年8000万㎥規模で森林蓄積量は増加しています。
そのため、国にとって森林資源の活用、ひいては新たな木材需要の創出は喫緊の課題であり、森林・林業・木材産業は成長戦略と位置付けられています。
これまで木材産業は需要の大半を新設住宅需要に依存してきました。しかし、新設住宅市場は、少子高齢化と空き家の増加によりすでに飽和状態にあり、今後大幅な減少局面に入ると予測されています。
このほど出された株式会社野村総合研究所の中長期新設住宅見通しでは、上記要因に加え、平均築年数の伸長、名目GDPの成長減速等を背景に、2020年度81万戸であった新設住宅着工戸数は30年度には65万戸、40年度には46万戸まで減少すると予測されています。
この予測を考慮すると、新設住宅市場の木材製品需要は10年後、20年後には3分の1から半分近く減少することになります。実際にはここまで厳しくはないにせよ、新設住宅向け木材製品需要が漸減するということは大方が認めるところです。
増大する森林資源、減少する新設住宅需要…
ここから導き出せる最も有効な取り組みが、先にキーワードとして挙げた「非住宅木造・木質化建築」なのです。
現在、非住宅木造・木質化建築に対する国や地方公共団体の公的助成事業は目白押しの状態。ざっと数え上げても毎年度10事業を超えると思います。
2021年6月11日には、公共建築物等の木材利用促進法を民間建築物に広げるための改正法案「脱炭素社会の実現に資するための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が成立しました。同年10月1日から施行されます。こうした国の取り組みも上記した課題が背景にあるといえます。
さらに、公共建築物等の木材利用促進法が制定され、庁舎や学校施設も少しずつ木造が増えてきました。民間でも、非住宅木造建築への挑戦事例が増加しています。今後、新しい法律の円滑な施行に向け、具体的な補助事業が打ち出されていくでしょう。
また、これまで木構造と縁遠かったスーパーゼネコンや大手建設会社でも、社内に木構造を担当する新たな部署が増えてきました。脱炭素社会の実現に向け、非住宅木造・木質化建築は国の明確は方向性であるとの理解の下、防耐火性能を高めた新たな木質構造部材開発をはじめ、活発な動きを見せています。
中大規模木造建築に向けた技術革新も急速に進展。大スパンを確保し、中高層を実現する新たな木質材料の登場、木構造にかかる構造設計技術や接合金物の開発、木造耐火実証試験を元にした耐火建築規制緩和などを背景に、今までになかった中大規模木造建築が可能になろうとしています。これに国の規制緩和も絡んできます。
中大規模木材建築の実現を支えてきた木質材料は、機械等級区分構造用製材および当該製材を原材料としたウッドBP材、中・大断面構造用集成材、構造用LVL、2×4工法、超厚物構造用合板、そしてCLT。防耐火構造に呼応した木質構造部材も多数登場しています。
これらの木質材料のおかげで、非住宅木造建築への可能性が著しく広がったのです。
今回は、
・木材建築は「都市の森」として、気候変動問題の解決策となる可能性を持つこと
・今後の日本の木材活用は非住宅木造建築がメインになること
を中心にお伝えしました。
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第3回となる次回のテーマは「CLTは普及するのか?日本の現状と課題」。
CLTの誕生背景、そして日本のCLT生産能力の現状や、CLT普及における課題などについてお伝えしていきます。お楽しみに!
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