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先ごろ「令和4年度JAS構造材実証支援事業」が公表され、4年目の今年度も2回に分けて募集されましたが、あっという間に予算枠に達し終了となりました。同事業は非住宅建築の木造化支援を促進するもので、非常に高い補助率となっています。
例えば、JAS構造材として区分された機械等級区分構造用製材および目視等級区分構造用製材(乾燥処理)、2×4工法用製材、構造用集成材、構造用LVLは使用材積1㎥当たり6万6000円、CLTは使用材積1㎥当たり14万円が補助されます。構造用合板、構造用パネルは調達費(木材代金+プレカット加工費+施工現場までの運搬費)の1/2が補助されます。
同様に木の塀、木のデッキを補助する「外構実証型事業」も大人気で、すぐに予算枠に達してしまいます。倍率は高いですが活用しない手はありません。前記したCLT補助などの原材料費がほぼゼロになるほどの補助率です。
森林・林業・木材産業関係の公的補助事業のうち、木材需要創出や省エネ建築に関係した補助事業が目白押しです。当社ホームページでも令和4年度の国及び地方公共団体の主な補助事業一覧を掲載していますのでご覧ください。
さて、特に注目したいのは、木材をふんだんに活用することが気候変動問題解決の一助、2050年カーボンニュートラル実現への道筋になるとの国の考え方です。東京都はこのほど住宅等への太陽光発電設置義務化の方針を打ち出しましたが、これもそうした方向性を反映したもので、並行して建築物の木造・木質化も都の重要な施策となっています。
令和4年度だけでも木材利用促進に関する補助事業は、国、地方公共団体で100件以上にのぼります。木材製品需要拡大、いわゆる出口施策は年々増加しており、主管官庁である農林水産省・林野庁主体の補助事業にとどまらず、国土交通省、経済産業省、環境省、文部科学省などでも木材利用促進に関連した補助事業が実施されており、複数省庁横断型で実施されるケースも増えています。
また、国庫や都道府県配分を財源とし都道府県や市町村がそれぞれ固有の事業名称を掲げて実施されるものも年々増加しています。東京都が代表的ですが、都が単独予算を計上して執行される事業も少なくありません。また直接的な補助事業ではありませんが、東京都は全国都道府県産材を一堂に集めた国産材振興の大型展示会、モクコレを毎年主催しています。
木材需要拡大を目的とした国や地方公共団体による補助事業がなぜ年々増加しているのでしょうか。背景にあるのは2050年カーボンニュートラルの実現という国の国際公約です。この国際公約実現に向けて既に全省庁が具体的な方策とロードマップを提示しており、各省庁の事業のかなりの部分はこの国際公約に基づく施策で占められているといっても過言ではありません。
地球温暖化を抑止しカーボンニュートラルを実現する上で、森林と木材が果たす役割は大変大きいものがあります。森林はCO2(二酸化炭素)の吸収源として重要な役割を果たしてきました。さらに森林から伐採された素材を原材料とする木材製品は使い続ける限り、長期にわたりCO2を炭素の形で木材内部に留める機能を持っています。
CO2を長期にわたり内部に貯蔵する木材の活用は近年、日本にとどまらず先進国に共通した気候変動問題を緩和させる有効な対策との評価が固まっており、地球温暖化抑止の切り札として積極的に木材を建築物、特に中高層木造建築に活用していくという流れができあがっています。この流れに呼応するように木構造や木質材料に関する技術革新、建築を可能にするための建築や防耐火基準の緩和なども検討が進んでいます。
各種公的補助事業を解説する前にSDGs(持続可能な開発目標)と森林・林業・木材産業の関係を掘り下げてみます。 森林・林業・木材産業は特にSDGsの目標にある「気候変動に具体的な対策を」「陸の豊かさも守ろう」と直結するものです。
【地球温暖化対策への貢献】
植物は大気中の二酸化炭素を吸収・分解し、植物内部に炭素として固定するとともに、大気中に酸素の放出を行います。この仕組みが地球上の動植物の生存を可能にしています。 今日の気候変動問題の原因の一つは温暖化であり、温暖化は大気中の二酸化炭素等の増加が原因です。大気中の二酸化炭素を削減する方法として森林の二酸化炭素吸収機能はきわめて重要です。
木材製品は、原油等の化石資源や鉱物資源のように採掘、製造過程で大量の二酸化炭素を発生させません。また、化石資源や鉱物資源は採掘するとなくなってしまいますが、森林は植林を継続することで循環資源となります。
木材はカーボンオフセットの考え方に基づき、木材製品の廃棄において、焼却や埋め立て処分をしても、大気中への二酸化炭素排出分は森林の二酸化炭素吸収とオフセットされます。化石資源や鉱物資源由来の資材は廃棄時の二酸化炭素排出も大きな課題となっています。
木材製品を建築物に活用することで炭素としてCO2を長期内部固定させるとの考え方は先進国に共通した考え方で、日本に限らず先進各国で建築物の木造・木質化が施策として取り組まれる時代となりました。
【炭素を内部で固定する機能】
木材は製品内部に炭素を固定し、木材製品廃棄後も木質ボード等に再利用され、引き続き炭素を固定し続けることができ、長期にわたり大気中への二酸化炭素排出を抑止します。
木材製品は廃棄、焼却されると炭素と大気中の酸素と結合し二酸化炭素を発生しますが、一方で森林が二酸化炭素を吸収するため長期的には差し引きゼロとなります。
【森林の多面的な価値】
私たちは森林から多くの恵みを得てきました。太古から今日まで、食料、建築材料、土木産業用材、様々な木製の道具や家庭雑貨、紙製品、寒さを防ぎ煮炊きするための燃料などあらゆるものを森林から得ることで支えられてきました。
森林には様々な動植物が生息しており、森林は生物の多様性を維持してきました。森林を健全なものとすることが、動植物の生息する環境を守ることにつながることはいうまでもありません。
森林は土砂崩れや河川の洪水など自然災害に対し国土の強靭化を実現し、安全な水資源を確保する役割を果たしてきました。 また、森林は人々の憩いの場であり、うっそうとした森の中に入ることで人びとはリフレッシュできます。
【木材の機能や作用】
木材に囲まれた空間は、木質材料が室内の湿気を吸収し、室内が乾燥すると湿気を放出します。木材に囲まれた空間は、ホルムアルデヒドなどの有害な物質や悪臭を吸収し、室内の空気を清浄化させます。木材に囲まれた空間に入ると木の香りで集中力が高まり、木の自然のデザインが緊張を緩和させます。木材に囲まれた空間はダニや細菌、ウイルスの繁殖を抑制し、インフルエンザにかかりにくくなるといわれます。
木材は熱伝導率が低く、触れると温かみを感じ、冬暖かく夏涼しい空間をつくります。比重が小さいことから転んでも木製の床だと衝撃を吸収しケガをしにくい特徴があります。
適切に設計された木造建築は、大地震にも耐えられ、鉄骨造やコンクリート造に比べ著しく軽量で全体的な施工コスト、輸送コストを軽減します。また、様々な木造防耐火構造が開発されています。木材は燃え代という考え方に基づき鉄やコンクリートよりも火災にも強い素材といわれます。
戦後、私たちの先達が手作業で復活させた緑の山は現在、資源として活用する局面に来ています。森林蓄積量は年々増加し、今や50億立方㍍を超えるといわれます。森林はこれからの日本の最も重要な天然資源であり、持続可能な資源です。
国産材活用は急務です。戦後植林された人工林は既に50年生以上となっており、この人工林が人工林面積の50%以上を占めています。つまり、戦後営々と続けられてきた間伐の段階を終え、人工林を主伐しこれを積極的に活用する時代が到来しているのです。そして主伐された森林跡地に適切な再造林を施すことで循環資源としての国産材人工林の実現が求められているのです。確実に供給力が高まってくる国産材人工林資源を付加価値の高い木材製品として活用していくことで山元に収益を還元することが可能となり、次の世代に向けた森林資源の拡充整備が現実のものとなるのです。しかしながら課題も多くあります。
長引く材価の低迷や林地相続の繰り返しで所有者が森林への関心を失い、山主不在のまま手入れされず、放置されている森林が多いという現状があります。 主伐再造林時代を迎えていますが、再造林への取り組みが遅れています。国産材需要は伸びていますが、再造林をないがしろにした場合、再び資源としての国産材は足りなくなる恐れがあります。 林業従事者が高齢化し、後継者も十分に育っていません。林業は危険の伴う仕事で、労災件数も多く、多くは日給制で福利厚生制度も不十分です。このため、意欲を持って林業をやってみたいと考える若い人の定着率も高くありません。国産材時代を本当に実現するためには林業従事者の社会的地位向上が欠かせないと考えます。
森林伐採後、再造林される比率が低く、伐採跡地が放置されたままとなっているケースも少なくありません。その一方で国産材の違法伐採が増加しています。 林業を主な産業とする中山村地域は、深刻な過疎化と高齢化が進行し、このままでは地域崩壊の危機にあります。
国は・林業・木材産業を成長戦略の中核と位置づけ、様々な需要分野において木材の活用を推進しています。こうした施策の背景として、戦後植林された森林が本格的な伐採期を迎え、この資源を活用することが急務となっているからです。
繰り返しになりますが、気候変動問題解決の切り札として、森林の役割は極めて大きいことが注目されています。国は循環可能な天然資源である森林から多面的な価値を引き出すことで、成長戦略、脱炭素社会の実現に資すると考えています。
法制度面でも、木材を活用するため、様々な施策が打ち出されています。「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物における木材の利用の促進に関する法律」が2021年10月1日に施行されました。2010年10月に施行された「公共建築物等木材利用促進法」を改正し、民間建築物を含む建築物一般で木材利用の促進を目指す法律です。
菅義偉首相は施政方針演説を行い、20年10月の所信表明演説における2050年カーボンニュートラル宣言を踏まえ、「グリーン化社会の実現」を重要施策と位置づけました。「もはや環境対策は経済の制約ではなく、社会経済を大きく変革し、投資を促し、生産性を向上させ、産業構造の大転換と力強い成長を生み出す、その鍵となるものです。まずは、政府が環境投資で大胆な一歩を踏み出します」と述べています。
21年の改正法は、国が目指すグリーン化社会の実現における重要なステップになるものです。これまでの公共建築物等の木造・木質化から、さらに民間建築へ踏み込み、木造・木質化建築物を拡大させることで、積極的に国産材等の木材活用を促し、気候変動問題の原因である二酸化炭素を木材内部に長期貯蔵させ、温暖化対策に資するものです。都市に第二の森林をというキャッチフレーズは皆さんも聞いたことがあると思います。
国は森林整備と木材活用促進を目的に、森林環境税・森林環境譲与税を制定しました。森林環境税として徴収される税金を地方公共団体に配分し、森林整備を促進するとともに、木材需要の拡大に向けた公的な出口政策の実施を促していくものです。森林環境譲与税は年間600億円規模と極めて大きく、森林・林業・木材産業を取り巻く環境は劇的に変化してくると考えられます。
国は木材需要の拡大に向け、精力的に非住宅分野で木造・木質化を推進し、後述するように毎年多くの公的補助事業を実施しています。前記した脱炭素社会実現に関する法律の施行に伴い、木材需要拡大を後押しする公的事業はさらに増えてくることが予想されます。
2021年6月に閣議決定した「森林・林業基本計画」では、国産材活用に向けた国の数値目標、国産材が抱える課題、今後進めていく施策等について取りまとめています。同計画のポイントは、「森林資源の適正な管理・利用」「新しい林業に向けた取組の展開」「木材産業の競争力強化」「都市における第二の森林づくり」「新たな山村価値の創造」です。
長くなりましたが、今、なぜ木材利用促進が重要施策なのか考えてきました。こうした国や地方自治体による木材利用促進事業は今後も活発に取り組まれると思います。前記したJAS構造材実証支援事業は非住宅木造建築需要促進を目的としたものですが、地方自治体では都道府県産材、場合によっては市町村材を一定以上使用した住宅等に助成する事業も多数あります。
多くは国庫配分で実施されるものですが、「○○県産材家づくり推進事業」等の名称をよく目にすると思います。国としてはあからさまに国産材を優先した施策は貿易面で困難ですが、地方公共団体を事業主体とすることで都道府県産材という観点からの国産材振興を推進することができます。私たちが調査した木材製品需要拡大に関連した補助事業の多くはこうした地域産材を建築物に活用した際に実施されるもので占められます。 それでも今年度はウッドショックに伴う外材製品高騰やロシアのウクライナ侵攻に伴う経済制裁に関連し、外材製品から国産材転換を促す国の補助事業も登場してきました。
もう一つは省エネです。政府は2022年4月22日、「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律案」、いわゆる建築物省エネ法案を閣議決定しました。この閣議決定には、住宅を含むすべての新築建築物に25年度から省エネ基準適合を義務付けすることが含まれます。 また、22年4月1日、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(住宅品質確保法)が一部改正され、断熱に関する新たな上位等級として、断熱等性能等級5と一次エネルギー消費量等級6が新設され、施行されました。この改正では22年10月からさらなる上位等級として断熱等性能等級6および7が追加新設されます。
建築物省エネ法と住宅品質確保法は連動しており、改正建築物省エネ法が成立した段階で、25年度からすべての新築建築物を対象に省エネ基準適合義務化が施行されます。義務化される断熱等性能等級はおそらく現行の等級4(16年基準)に近い基準となります。 こうした法制度の整備と連動して経済産業省、国土交通省、環境省などを主な主管官庁として、省エネルギーという観点から住宅新設・増改築におけるネット・ゼロ・エネルギー住宅(ZEH)化を実現するための補助事業が目白押しです。省エネ関連の補助事業も引き続き活発に打ち出されると思います。
建築物省エネ法では温室効果ガスの吸収源対策の強化を図るうえで、木材需要の約4割を占める建築物分野における取組が求められており、建築物分野における木材利用のさらなる促進に資する規制の合理化などを講じることも盛り込まれました。 この項目が意味するところは、建築物の木造化を推進することで使用される木材製品内部で引き続き長期にわたり、炭素を貯蔵する機能があることを重視したものです。建築物省エネ法で木材利用の促進が明記されたことは画期的といえます。
ここでは木材利用促進に関する補助事業の課題を考えます。 第一に事業執行者が地方自治体の場合、よく問題となるのは地域産材による縛りです。都道府県や市町村の縛りを設けると域内に木材加工設備等がない場合、域外へ原材料を移送しなくてはならないため、輸送コストが積み増されることになります。 予算計上する地方自治体としてはそうした縛りを設けないと地元還元できないため仕方ないともいえますが、国産材ぐらいに留めることが理想的です。予算がいつまでもあるわけではなく、助成がなくとも本当に目次利用促進に向けた民需を活性化させるためにはコスト競争力向上も重要であることを事業者は考えていく必要があります。
また、補助金があるからといって事業に参画した元請、下請、材料供給者、コンサル機関等それぞれがまとまった利益を組み込み、その結果、木造・木質化された建築物の費用が大幅に膨らんでしまうといった話も聞きます。これも、補助金がなくなったら立ちいかなくなるものです。何よりも山に適切な収益を還元できなければ持続可能な森林経営を促すこともできません。
元請や設計者の木材に関する知見の低さも問題です。あたかも工業製品のごとく、極めて短納期で木材製品供給を求めるケース、流通材を知らず設計者の思い込みで特注寸法を書き込むケースなど現場の混乱は少なくありません。構造設計を優先するあまり集成材等になってしまうケースも多いのですが、無垢の国産材KD構造材でも機械等級区分のJAS認定があります。共通して木材の特徴、長所と短所を正しくわかっていないため、あとでトラブルとなったりもします。
プロポーザルでは前記したような大義を書き込みますが、本当に持続可能な森林実現に結び付いているのか疑問に思うこともあります。非住宅木造建築物の多くは材工がセットになっていますが、経費削減に関するしわ寄せの多くは木材製品に集中します。
木材は正式発注してすぐに供給できるものではありません。まず丸太を伐採し、皮むきして製材工場に投入し、粗挽き製材の後、天然乾燥・人工乾燥を経て、必要とされる最終製品になり出荷されます。既製品を少量というのであれば何とかなるかもしれませんが、数量が多かったり、特殊寸法であったりすると納期にかなり時間がかかります。大寸面の構造材は適切な含水率を実現するのに時間を要します。
理想は材工を分離し、木材に関しては場合によって入札前にある程供給体制を確立することが望まれます。また、丸太は基本的に現金で調達するわけですから、木材製品代金の支払いが、例えば製品引き渡し後とか、竣工して補助金が交付されてからとなると製材工場は資金繰りが苦しくなります。施工者はこうした決済問題にも適切に対処する必要があります。
木材利用促進等に関する国や都道府県、市町村の補助事業は当社に問い合わせていただければ、申請のお手伝いを含め可能な限りアドバイスいたします。補助事業速度が速いので物件とのタイミングが合わないケースもありますが、継続事業も多くあります。案件があれば早めに準備し次年度に申請することもおすすめします。
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